トヨタの成果主義拡大「6.5万人評価」の試練 新賃金制度では定昇がゼロになるケースも

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人間力の導入は2019年秋の労使交渉で経営側が提案したのがきっかけだ。自動運転や電動化などCASEと呼ばれる次世代技術の競争が激化する中、トヨタは2018年1月に「モビリティ・カンパニーへの変革」を宣言し、グループ内外の連携強化を加速してきた。

豊田章男社長は無駄を徹底的に排除するような「トヨタならではの競争力」と「相手を巻き込む力であり、人間の感性や魅力」である「人間力」が会社の変革に欠かせないと強調した。

しかし、実行力に比べ、人間力の定義は曖昧で客観的な評価は難しい。人間力が「◎」でも実行力が著しく低い場合、総合的にどう評価するのかは明らかでない。努力しているものの、まだ成果が出ていない人を厳しく評価してしまうと、社員のやる気を損なう可能性もある。組合が経営に対してフィードバックの徹底を求める理由もそこにある。

賃金制度改革で競争力は高まるか

経営も組合員が納得できる評価制度を作ることの重要性を認識しており、評価を行う基幹職や考課を行う幹部職に対する訓練にも力を入れている。

ただ、トヨタの元役員で系列部品メーカー首脳は、「若い段階から昇給で大きな差をつけることでモチベーションを引き上げられるかは疑問だ。当社でこうした制度は導入しない。むしろ、会社が責任を持ってある程度のレベルまで人材を育成することに力を入れるべきだ」と批判的だ。

果たして、人間力という新たな評価軸を盛り込んだ賃金制度改革で、一人ひとりの競争力強化にどこまでつながるのか。評価者のスキル向上をはじめ、成果主義の拡大に伴う課題はいくつもある。導入初年度となる2021年は変革を急ぐトヨタにとって、試練ともいえる年になりそうだ。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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