「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕 官製ベア・残業代ゼロ・解雇解禁の「点と線」
昨年10月、経済界、労働界の代表を集めた政労使会議の場で、安倍は居並ぶ企業経営者に賃上げを強く要請した。この日以来、各経済団体や企業経営者による賃金のベースアップへの言及が相次ぎ、3月の春闘一斉回答日でも大手企業が軒並み6年ぶりのベースアップを回答した。
この「官製ベア」の実績を引っ提げて、安倍は自民党の首相としては13年ぶりに連合主催のメーデーに出席。「企業収益が賃金につながっていくことが大切」と、引き続き賃上げを要請していくとアピールした。
官邸に十二分に花を持たせたのだから、次こそ念願の「残業代ゼロ」をと、手ぐすねを引く経団連だが“安全運転”の方針は徹底している。
3月に規制改革会議が実施した「公開ディスカッション」で、労働時間規制の緩和が議論された折も、経団連常務理事・労働法制本部長の川本裕康は独自の説明資料を用意せず口数も少なかった。あくまで緩和を主張する規制改革会議案に対する賛意表明にとどまった。
「首相指示」が下され規制緩和は不可避に
強烈な推進役が不在では、スマートワークをこのまま公表することは得策ではない、と判断した菅原が着目したキャッチフレーズが、「女性の活用」である。
経済界から、より使い勝手のよい「残業代ゼロ」制度を求められたというより、柔軟な働き方を望む子育て世代や親介護世代の女性の活用のため、という建前のほうが、世間体はもちろん、女性の活用推進に深くコミットする安倍以下、官邸の受けもはるかによい。そこで2週間の突貫工事でスマートワークから作り替えたのが、冒頭のAタイプというわけだ。
聞こえのよさを獲得した一方、失われたのがわかりやすさと、これを積極的に導入する意義である。
「育児・介護の事情がある世帯のニーズは、労働者の方々にも非常に満足度が高いフレックスタイム制の活用で実現できる」
そもそも無理筋の建前である女性の活用推進という点を、強調すればするほど、厚労相・田村憲久のこのある種至極まっとうな批判に、対応できなくなってしまう。
経済界側にしても、経産省の手法に完全に賛同しているわけではない。くしくもAタイプが発表されたのと同じ4月22日、経済同友会はJFEホールディングス社長の馬田一が委員長を務める雇用・労働市場委員会の提言の発表を予定していた。
事前の案内によれば、労使双方にメリットのある「労使自治型裁量労働制」の創設を提言するとあり、少なくとも新入社員まで残業代ゼロになるスマートワークとは一線を画するものであったことは間違いない。
ところがその5日前に急きょ延期が発表された。関係者によれば、長谷川の意を受けた同友会事務局が馬田にスマートワークについて提言に入れるよう求めたところ、到底同意できないと馬田が激怒。長谷川と馬田の間も険悪になり、やむなく延期になったとされる。
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