「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕 官製ベア・残業代ゼロ・解雇解禁の「点と線」

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民主党政権時の財務省に取って代わり、安倍政権下の主要会議の事務局を取り仕切る経産省だが、こと雇用問題に関してはこれまであからさまに乗り出してはこなかった。

昨年3月、競争力会議がやはり長谷川の名で出し、「再就職支援金の支払いとセットでの解雇(解雇の事前型金銭解決)」などの内容で波紋が広がったペーパーも、経産省OBの原英史(政策工房社長)と経済同友会政策調査第1部長の菅原晶子(現・日本経済再生総合事務局参事官)の合作であり、経産省本体はタッチしていない。

それが今回は一転、経産省の筆頭局長の菅原自らがこの「原案ペーパー」を片手に、起案した産業人材政策担当参事官の奈須野太と連れ立って、3月半ばすぎから官邸関係のほか、経済団体など各界上層部への根回しに奔走している。

昨年末に念願の産業競争力強化法が成立し、今後のアベノミクスの浮沈は株価動向に懸かっていることを痛感する経産省。「とにかく外国人投資家受けする政策を」と探し回った結果、農業、医療など「岩盤規制」がある分野の中でも、最も出遅れている雇用に目をつけた。

菅原が動く最初のきっかけとなったのは、経団連からの陳情だ。前任の製造産業局長時から、規制色の強い民主党政権の雇用政策への不満を経済界から吸い上げていた菅原に対し、経団連幹部は分科会が提示した年収1000万円以上が要件となると、会員企業のほとんどが利用できず、これでは意味がないと訴えた。

後のBタイプにつながる、「外資の為替ディーラー」をイメージした「年収1000万円要件」は、官邸内でも財務省筋からの提案だ。

昨年9月、競争力会議課題別会合の国家戦略特区ワーキンググループで、大阪大学招聘教授で座長の八田達夫は、特区内の一定の事業所で、解雇規制の緩和や労働時間規制の適用除外を認めるべきと提言したが、「解雇特区」「残業代ゼロ特区」と批判され、撤回を余儀なくされた。このことが教訓となり、制度実現に持ち込むにはまずはハイレベルキャリアモデルに絞り込もうとなったのだ。

これならば、かつてホワイトカラー・エグゼンプションを労働政策審議会が答申したという建て前上、厚生労働省や連合も説得できると踏んでのことだ。財務省らしい収束プロセスをにらんだ手堅い手法だが、収まりがつかないのが経産省だ。

経産省としては経団連からの陳情をもっけの幸いと、投資家受けするインパクトのある案を模索し、スマートワークをブチ上げた。だが実現に向けネックとなったのが、郵政改革を進めた元首相の小泉純一郎のような、強烈な推進役の不在である。

官製ベアを受け入れた経団連も及び腰

首相の安倍晋三と周囲は、ホワイトカラー・エグゼンプションの挫折が第1次政権のつまずきのきっかけとなっただけに、慎重な物言いを崩さない。行政改革担当相の稲田朋美は存在感が皆無。菅原を引き上げた甘利も、労働相経験もあってか雇用規制の緩和には積極的ではない。

陳情した経団連も、自ら矢面に立つつもりは決してない。

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