日本の「攻撃力強化」を米国が心底望まない訳 イージス・アショア停止でどう自国を守るのか

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アメリカの専門家はまた、対外攻撃能力の保有について、日本国内のみならず、韓国、さらには中国からも政治的抵抗があるのではないかと懸念している。「日本は実際に対外攻撃能力獲得を目指し、内外の抵抗を克服するために政治的資本を犠牲にするだろうか」とヘリテージ財団の日韓アナリスト、ブルース・クリンガー氏は自問する。

日本はアメリカから購入した新しいF-35戦闘機と、すでに日本の航空艦隊に配置されているF-15戦闘機用に射程延長型ミサイルを購入することを決めている。

ほかに可能な選択肢としては、アメリカがこれまで提供したことのない地上発射トマホーク巡航ミサイルを取得するか、日本が独自に弾道ミサイルを開発することである。弾道ミサイルの開発は地域を不安定にする可能性のある大きな変化になるだろう、とアメリカの防衛専門家は心配している。

オフショア配備は可能なのか

前述のとおり、アメリカの防衛専門家は、日本のミサイル防衛システムの強化を支持しており、アメリカ軍と緊密に連携して運用される攻撃能力は限定的なものとなる。

だからこそ、河野太郎前防衛相がイージス・アショアを一時停止すると決めたことに、一様に驚いた。同コンポネントの導入により、現在日本に配置しているイージス駆逐艦を再配備できることを望んでいたからだ。ウォレス氏は、予定どおりであれば、日米の駆逐艦が南西部における中国の活動にもっと集中できただろうと指摘している。

アメリカの防衛当局は、いまも陸上配備システムを進めることを望んでいるが、日本側からのオフショアのアイデアを検討する準備ができているとも話す。

ただし、現在議論されている提案がうまくいくかについては、深刻な懐疑論が持ち上がっている。専門家によると、迎撃ミサイルシステムを沖合の艦艇に配置することは、海上自衛隊の人手不足がすでに顕在化しているところに、さらに負担をかけることになる。艦隊などに設置することは、天候による波乱に対して脆弱である点も指摘されている。

さらに、石油掘削リグタイプのプラットフォームでは、指揮系統システムにリンクするために岸の近くに配置される必要があり、陸上レーダーとの安全で迅速な通信を維持することも課題になる。筆者個人は、防衛省は別のイージス駆逐艦を建造するか、日本海上自衛隊のほかの資産をやりくりするか、オンショアバージョンに戻るのではないかと見ている。

今後はアメリカの大統領選の結果が、日本国内でのこの議論にどのような影響を与えるか、である。トランプ大統領が再選すれば、防衛費の分担に関する議論が再浮上する見通しで、日本が独立路線を歩む背中を押す可能性がある。一方、バイデン氏が勝利すれば、より限定されたミサイル防衛戦略に傾く可能性がある。今のところは結果を見守るしかない。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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