日本の「攻撃力強化」を米国が心底望まない訳

イージス・アショア停止でどう自国を守るのか

実際、日本の防衛関係者や保守派の政治家は、1950年代にまでさかのぼって、この可能性について長い間議論してきた。対外直接攻撃能力については、1998年の北朝鮮のミサイル実験で、ミサイルが日本を飛び越えた後に再燃したが、専守防衛の原則を超える論議だということで、尻すぼみに終わっている。

しかし、2003年に北朝鮮が核不拡散条約から撤退し、ミサイル実験が行われ、2006年10月に最初の核実験が行われたとき、日本の防衛当局は原則として「発射時に」敵のミサイル基地を攻撃する権利を再主張した。

「アメリカの抑止力に完全依存できない」

2007年春のインタビューで、当時の航空自衛隊でミサイル防衛計画に関わっていた田中耕太氏は、効果的なミサイル防衛には約500発のパトリオットミサイルが必要だと語っている。 日本の駆逐艦に搭載されたイージス・システムは、防衛能力を向上させたが、直接攻撃能力を獲得することは、より軍事的に論理的であると同氏は述べている。

その前年、首都ワシントンに滞在していたときに書いた論文の中で同氏は、完璧な防衛システムなどありえず、日本はアメリカの抑止力に完全に依存することはできないと主張している。「国の存続がかかった非常に重要な問題の解決を迫られたときに、他国の助けに頼ることをわれわれは受け入れられない」と同氏は記している。

こうした考えは新しいものではないが、ヨーロッパと北東アジアにおけるアメリカの安全保障同盟の価値を疑問視し、「アメリカ第一主義」の外交政策をうたうドナルド・トランプ大統領が就任して以来、支持が高まっている。2019年3月に月刊誌『正論』に掲載されたインタビューで、安倍晋三前首相の弟でもある政治家の岸信夫氏に対して、意図的にこのように投げかけている。

「日米同盟が強固であることは心強い」と『正論』の記者は述べつつ、こう尋ねている。「しかし、『アメリカ・ファースト』を掲げる米国が北朝鮮の核攻撃から日本を本当に守ってくれるでしょうか?日本国内には懲罰的・報復的抑止力として『敵基地攻撃能力』を持つべきだという意見もあります」。

これに岸氏は、こう答えている。

「我が国はイージス・アショアなどミサイル防衛を強化しています。ただ、敵国からミサイルを撃たれた時、それが単発ならともかく、『飽和的に撃たれた時にその全てを打ち落すことができるのか?』という難題に直面していることは否定できません。日米同盟において『矛』の役割は米軍が担っていますが、『我が国の存立に関わる事態への対処を米国だけに委ねていいのだろうか?』という問題意識も理解できますので、潜在的には議論の余地があると思います」

このような発言は西側の防衛専門家をやきもきさせるが、前述のとおり、日本がこの道を進むことはないと信じている。理由の1つは、実現にかかる莫大なコストだ。

神奈川大学の日本の安全保障政策の専門家であるコオリ・ウォレス氏は、「財政不足を考えると、GDP予算の1%を費やして、精密な対外攻撃能力を構築することについて考えることさえ私にはバカげているように思える」と話す。そして、たとえ日本が国防費を拡大できたとしても、人的資源の不足や、採用活動の難しさなどほかの問題に直面するだろう、とウォレス氏は付け加えている。

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