──こころの時計も脳にあるのですね。
生き延びるためには、たとえば人間がクマと遭遇した場合、すべての能力を瞬時に脳に集めて、逃げるか戦うかを瞬時に判断する。その能力がこころの時計の本来の姿だ。しかも、人間はこころの時計が怒りや悲しみ、思いやりまで操るようになった。こころの時計を備えたがゆえに、人間の時代を築けたともいえる。その意味で、こころの時計は人間にとって重要だ。それら三つの時計を持つことによって、人間として生きることができるようになった。
──こころの時計はどこに?
脳の島皮質という神経細胞群にある。リトルブレーンともいわれる。ほんの小さな場所だが、脳の奥深くに分化して存在する。物事を判断する脳の前頭葉、あるいは記憶に関係する側頭葉、それらと連係を強く持てる場所だ。こころの時計は、特に人間の場合、生命欲や生活の質にも関係している。アルツハイマー病の患者の容体が急変するとか、健康な人が急死するとかというときに、島皮質のどこの部分がどのように働くのかがわかってきている。こころの時計は人の生き様をつかさどる重要な機能なのだ。
──老化すると三つの時計はどうなるのですか。
加齢とともに、時計細胞が減ってくる。その結果、時を刻む仕組みが崩れてきて、体内時計は短い時間で繰り返されるようになるので、早寝早起きになってしまう。また時計遺伝子を取り出してしまうと、老化が速く進み、寿命が短くなる。たとえばその影響は血管内皮に端的に表れる。動脈の血管の内側にホルモンを出す細胞群がある。内分泌系としてはいちばん大きいところとされている。そこの血管内皮が傷まないように調整しているのが、生体時計。時計が狂うと血管内皮が傷み、動脈硬化も速く進むといわれている。
腹時計の場合は、サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)との関係が重要だ。たとえば食事量を4分の1減らすと、サーチュインが活性化されて、老化が遅くなり、長寿が得られる。サーチュインそのものを活性化する食べ物もある。ポリフェノールの一種、レスべラトロールによって活性化される。赤ワインを定期的に飲むとか、イタドリやピーナツの皮を適量食べるのもいいようだ。
体内時計が壊れると、リズムがなくなり生活にメリハリがきかない。腹時計のサーチュインは、メリハリを作る唯一のものといっていい。夜はゆっくり休み、昼は十分に活動する。血圧は夜ぐっと下がり、昼間高くなる。脈拍は夜落ち着いて、昼間速くなるという具合に、リズムにメリハリを作る。その「製造元」の空腸は老化が最も遅い臓器で、特別に保護されているともいえる。
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