最初、ケリーがこうした方法をクライアント企業に提案したとき、実際のデザインを行う以前の段階は単なる付け足しとしてしか理解されなかったという。だが、ケリーはこの全体のプロセスにかかわることができなければ仕事を受けないと拒み続けたという。
今では、このデザイン思考はデザイン業界だけではなく、広くビジネス界、NPOの世界にまで浸透している。また、シリコンバレーでアイデアをビジネスにする方法論として人気のある「リーン・スタートアップ」にも、共通点が見いだされる。
要は、よく観察し、試行錯誤を繰り返して思考とモノを練り上げていくこと。独りよがりではなく、感覚を研ぎすまして、思考とモノづくりのジャーニーを続けていくということだ。
大事なのは、自分がクリエーティブだと自覚できる経験
そのケリーは最近、クリエーティビティに関する著書、『Creative Confidence』(邦題『クリエイティブ・マインドセット』)を書いた(弟のトム・ケリーとの共著)。同書は、誰にでもクリエーティブになれる潜在力があると訴える内容だ。
「普通の人々は、自分はクリエーティブな人間じゃないとあきらめているところがある」と彼は言う。小さい時の体験で、そうなったのかもしれない。クリエーティブであれば、人生においてより優れた決断ができるのだが、そうやってあきらめてしまった人々は、見た目はよくても実際には不満足な仕事についてしまっていたりするという。
ケリーは、自分はクリエーティブになれないという恐怖心は、小さなステップにおいて小さな成功を重ねていくことで払拭できると強調する。自分をクリエーティブであると自覚できれば、自分の周りを変える力は自分にこそあると感じることができるというのが、ケリーの持論だ。今の彼は、その道のりをできるだけ多くの人々に体験してもらうことをライフワークにしている。
当のケリーも、大学卒業後は大企業のエンジニアとして就職した。そこからデザインにかかわり、デザイン思考にたどり着き、そしてクリエーティビティという人間の核心に触れるところにまで、彼自身もジャーニーを続けて来たと言える。
人はいつでも、自分の思考と自分自身を推し進めていくことができる。これこそ、デザインということばの真意なのかもしれない。
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