太田光「負けた時に悔しがれる人間感情の尊さ」 テクノロジーが進化しても変わらない人間根幹

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じゃあ、AIやコンピュータにその手の感情の揺れが必要かどうかといえば、怪しいものでね。たとえば、いまではほとんどオートマチック化している旅客機の操縦に感情の揺れなんてものをプログラミングしたら、危なっかしいったらありゃしないわけでしょ?

直感か、論理か。これは、感情の揺れのひとつの発展系の話だと思うんだけど、アインシュタインの相対性理論もニュートンの万有引力の法則も、まず先にあったのは「直感」だったという説がある。稀代の天才ふたりは、自分が直感した法則を、言わば後付けで検証していった。

つまり、直感のあとに論理があるわけで、逆はありえないという説。ということは、コンピュータがいかに論理(データと言ってもいい)を積み上げても、人間のようには直感(ひらめきとも言える)を持つことはないような気がする。

もちろん、ロボットを人間に近づけるという研究も盛んではあるから、感情やひらめきに似た構造の仕組みをプログラミングすることは可能になるかもしれないけど、じゃあそれが人間の持つ力とまったく同じ輝きを放つかと言えば、俺には疑問だ。

「ロボット漫才」では再現できないこと

まぁだから、あんまりAIにビビらなくてもいいんじゃないの? ということ(笑)。ちなみに、爆笑問題の未来予想図を想像してみると、もっと楽に漫才ができていたらいいなぁと思う。

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若い頃は、きっちりと練習して、絶対にこの間とこのフレーズでなきゃダメだと自分たちを追い込んでいた。そうでなきゃ、怖くて客前になんか立てなかった。キャリアを重ねて少しはマシになったとはいえ、その感覚はいまでもどこかに残っているから、10年後なのか、20年後なのか、お互いがじいさんになる頃には、もっと楽に漫才ができていたらなぁと期待してしまう。

爆笑問題の近未来――。テレビなのか寄席などの舞台なのか。ふたりでよぼよぼとセンターマイクまで歩いて行って、その場で思いついたことをしゃべって、それが漫才になっていたのなら。それこそロボット漫才では再現できないであろう人間味のある漫才がやれていたらと想像すると、俺の口元はちょっとゆるんだりする。

太田 光 お笑い芸人

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おおた ひかり / Ota Hikari

1965年5月13日埼玉県生まれ。1988年、同じ日本大学芸術学部演劇科だった田中裕二と漫才コンビ爆笑問題を結成。1993年『NHK新人演芸大賞』で、漫才では初めて大賞を受賞。同年、テレビ朝日の『GAHAHAキング爆笑王決定戦』にて10週勝ち抜き初代チャンピオンに。以降、爆笑問題のボケ担当としてテレビ・ラジオで活躍。文筆活動も活発に行っている。主な著書に『爆笑問題の日本言論』(宝島)『カラス』(小学館)『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)『マボロシの鳥』(新潮社)、『憲法九条の「損」と「得」』(扶桑社)など

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