朝ドラ「エール」凄惨な戦地の描写に透ける覚悟

天才作曲家・古関裕而を描く為に逃げられない

「朝から気が重くなるような戦場のシーンがたくさん出てきます」(土屋)、「ここまでの戦争描写を、朝の食卓に届けることへの若干迷いというか躊躇があるのは確かです」(吉田)と番組宣伝の取材らしくない言葉が続くとはいえ、18週の終わりでは、裕一が平和への祈りの曲を作ることになる戦後編の幕が開け、裕一と戦後ともに多くのドラマや演劇を作っていく劇作家・池田が登場する。彼が自作を巡ってNHKとやりとりする場面は何かがはじまりそうなワクワク感がある。

吉田さんはその場面をこう説明する。

「終戦当時のマスコミの状況がドラマで描かれることは少ないと思います。GHQの下に文化を統率したCIE(民間情報教育局)という組織があり、戦後日本の思想教育を担っていました。当時、NHKも中間管理職みたいな状態にあり、なにが国民にとって重要かよくわからないまま活動している状況です。価値観が非常に混沌としている中で、気概をもって、これが描きたいのだとまっすぐ突き進んでいく池田の力強さを際立たせるためにCIEという存在を描くことが必要だと思いました」

ドラマの中のセリフと重ねて「自分の心に嘘をつかずにドラマを作っている」と言う吉田さん。朝ドラでは「あまちゃん」、そのほか、実話を基にした「洞窟おじさん」をはじめ、映画「探偵はBARにいる」シリーズなどの監督もつとめている才人だ。

笑いを見つけたら、そこに潜む真実を探せ

ドラマの演出をする前に、映画化もされるほど盛り上がったコント番組「サラリーマンNEO」を手掛け、その当時、読んだ演出論『演出についての覚え書き 舞台に生命を吹き込むために』(フィルムアート社)に、「他人の不幸なきところに笑いは起きず」「笑いを見つけたら、そこに潜む真実を探せ」と書かれているのを読み「それを信じてやってきました」と言う。

コント番組の前は歌番組「NHKのど自慢」も担当していたことから、ドラマの中に笑いや歌を挟み込むセンスに長け、名作と名高い「あまちゃん」を、歌や笑いの入ったドラマの最高峰と言っていいものにした功労者のひとりでもある。

歌や笑いのエンタメが得意かと思えば、長谷川博己が主演した横溝正史の「獄門島」では、金田一耕助に戦争のトラウマがある演出を施し、まるで映画『タクシードライバー』のような趣を作り出した。

悲劇も喜劇も自在に描く吉田さん。「エール」ではハードな戦地を描きながら、ユーモアも決して忘れない。

多くの面白いドラマを作ってきた吉田さんのドラマのそこここに真実がそっと忍ばせてあるのだと思う。だからドラマで描かれたNHKとCIEの関係もアイロニーかと思ったら、「現代のなにかのメタファーということはまったくありません」とあっさり否定した。なあんだ、そこは考えすぎだったようだ。

「エール」に描かれた真実とフィクションという嘘の交響詩がどんなフィナーレを迎えるか、一場面一場面、見逃さないようにしたい。

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