学術会議の「任命拒否問題」に潜む次の問題点

国立大学の学長人事に波及する恐れもある

野党は今回の件を問題視し、追及していく方針だ。10月26日に召集予定の臨時国会の争点にも浮上している。

この問題は日本学術会議の会員人事にとどまらないかもしれない。懸念されるのが国のほかの教育・研究機関への影響だ。

例えば、国立大学の学長人事。国立大学法人法は「学長の任命は、国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う」(12条)となっており、日本学術会議法の「会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」(7条)とほぼ同じ条文構造だ。文部科学省人事課によると、国立大学法人の学長は閣議了解を経て文科相が任命する。

国立大学法人の学長人事に波及?

2011~2012年には東京工業大学で、文科相へ上申(申し出)したものの、2人続けて候補者が辞退し、学長の任命に至らなかったことがあった。学長選考会議で副学長(当時)が選出されたが、研究費の不正経理問題で辞退。その後、学長に選出された工学部長(当時)にも研究費の不正経理疑惑が浮かび、文部科学省が就任を留保。特別調査委員会による調査が行われ、工学部長は最終的に辞退した。

これは文科相による任命拒否のケースではないが、文科省国立大学法人支援課は「任命権者である文部科学大臣は、法人からの申出に明白に形式的な違法性がある場合や、明らかに不適切と客観的に認められる場合などを除き、法人の申し出に法的に拘束されるものと考えられる」と説明する。つまり、原則として大学側が提示した学長選任案を国が拒否することはないというわけだ。

しかし、教育ジャーナリストの渡辺敦司氏は「今回の日本学術会議の例に照らせば、国立大学で学内選考された学長候補の任命を精査、拒否できるという、国立大学の教職員が国家公務員だった時代でさえ控えていたことが可能になる。今回の判断は、学問の自由の侵害への第一歩となるものと言わざるをえない」と指摘する。

私立大学・短期大学の教職員組合で構成する日本私立大学教職員組合連合は「歴史に残る汚点となるばかりか、学問の自由を定めている日本国憲法の明確な蹂躙」とする緊急声明を公表。菅首相の母校である法政大学の田中優子総長も「この問題を座視するならば、いずれは本学の教員の学問の自由も侵されることになる」というメッセージを発表している。

学術会議の問題が発覚した当初、「法に基づいて適切に対応した」と述べるにとどまっていた菅首相。問題の広がりを受けてどう対応するのか。菅首相の判断が待たれる。

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