「トランプ感染」でアメリカ大統領選はどうなる 死亡など万一の場合は前例なき大混乱に

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アメリカ社会の分断を象徴するかのような中傷合戦となった第1回テレビ討論会(写真:Olivier Douliery/Pool via REUTERS

トランプ氏にとって、コロナ感染は選挙戦術上、大きな痛手となることは間違いない。

これまで同氏は専門家の警告にもかかわらず、コロナを軽視し、マスクを着用することもなく、大規模な選挙集会を何度も開催してきた。接戦州を中心にリアルの大規模集会を繰り返すことこそ、2016年の大統領選での勝利につながった自分流の選挙戦術と考えているからだ。

だが今回、大統領としての危機管理の甘さが露呈した。隔離期間の今後約2週間はリアルの選挙集会は開けず、集会はオンライン開催か延期となる。軽症のまま回復したとしても、当面は全米を飛び回っての集会を開催できるかはわからない。十分な対策がなければ感染が広まることを、身を持って証明した以上、(普通の感覚であれば)少なくとも従前のような大規模集会は慎まざるをえないだろう。

第2回討論会も開催は微妙に

トランプ氏のこれまでの言動も改めて批判の対象となる。パンデミック初期に同氏は「ウイルスはある日、奇跡のように消えてなくなるだろう」と述べたほか、「消毒剤を体内に注射してみればいい」などと信じられないような妄言まで会見で口にしていた。そうした中でアメリカ国内のパンデミックは広がり、コロナによる全米の死者はすでに20万人を超えた。

9月初旬にジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が出版した新著『RAGE(怒り)』では、トランプ氏が2月初旬の段階でコロナウイルスについて「ひどいインフルエンザよりも致命的だ」と深刻な脅威と認識していながら、国民には心配ないと嘘をついていたことが暴露された。

9月29日に行われた大統領選の第1回テレビ討論会では、バイデン氏に対して「彼は200フィート離れて話すときにも、見たこともないでっかいマスクをつけている」と冷やかしていた。トランプ氏は「私は必要な時には着ける」と、胸ポケットからわざわざマスクを取り出してみせたが、これまで感染症の専門家の忠告に反してマスクの効用に疑問を呈していたことは周知の事実だ。

10月15日には第2回のテレビ討論会が開催される予定だが、軽症であっても原則2週間程度の自主隔離を余儀なくされるため、予定通り開催できるかどうかは微妙だ。

第1回討論会は、トランプ氏がバイデン氏や司会者の発言を何度も遮ったり、互いに子供のけんかのように罵り合ったり、まさにカオスの様相を呈した。その中で、比較的冷静に国民へ主張をアピールしたバイデン氏優勢の印象が強かった。

リアル・クリア・ポリティクス集計による平均支持率も、討論会直後はバイデン氏のリードがやや拡大している(10月2日時点で7.8ポイントの差)。おそらくトランプ氏は第2回討論会で劣勢をひっくり返す秘策を練っていると思われるが、それが投入されないまま不発に終わる可能性がある。

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