「トランプ感染」でアメリカ大統領選はどうなる 死亡など万一の場合は前例なき大混乱に

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より問題なのは、重症化した場合だ。トランプ氏は74歳と高齢で、かつ肥満体形(身長約190センチメートル、体重約110キログラム)と見られ、重症化リスクの相対的な高さが指摘されている。

もし重症化すれば、入院期間はより長期化することになる。3月にイギリスのジョンソン首相がコロナに感染した際には、一時的に集中治療室(ICU)に入り、執務復帰まで約1カ月を要した。その間、首相の職務は外相が代行した。

トランプ氏が同様の事態となれば、第2回、第3回(10月22日)の討論会出席はおろか、11月3日の投票日まで本人参加の選挙運動が事実上不可能となる恐れがある。一部にはトランプ氏への同情票が集まるとの見方もあるが、選挙戦で決定的に不利となる可能性は高い。

大統領が職務を継続できなくなった場合には、副大統領(兼上院議長)、下院議長、上院議長代行、国務長官といった順に大統領の職務を引き継ぐことが法律で決まっている。トランプ氏が重症化して執務できない場合は、継承順位1位のペンス副大統領(2日に陰性公表)が一時的に代行することになるだろう。

選挙前にトランプ氏が死亡したら大混乱

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万一、トランプ氏が大統領選挙前に死亡したり職務継続が不能になったりした場合はどうなるのか。大統領としての残り任期中は継承順位に従って副大統領が代理の大統領を務める。過去にもケネディ大統領暗殺時やニクソン大統領辞任時には副大統領が大統領へ昇格した。

問題は、来年1月以降の次期大統領となる共和党大統領候補がどうなるかだ。その場合の対応についてはアメリカの連邦法には規定がなく、大統領を代行する副大統領がそのまま自動的に次期大統領候補になるわけではない。

共和、民主の両党には、党大会を経て決まった大統領候補が選挙前に死亡するか撤退して不在となった場合の新候補選定ルールがある。共和党では、議員と党職員の168人で構成される共和党全国委員会(RNC)の多数決によって新たな候補を決めることになっている。

だが、さらに厄介な問題は、投票日まで1カ月を切った今、すでに投票用紙がトランプ氏の名前で印刷され、期日前投票も一部の州で始まっていることだ。投票用紙を印刷し直せればいいが、それが難しい場合、有権者がどういう形で投票することになるかは各州の対応次第で定かでない。連邦法で決まっている投票日を延期することも難しく、現地の法律や選挙の専門家も事態の行方を明言できない状況だ。

もちろんトランプ氏の死亡リスクは小さいとしても、万一の場合には大混乱が避けられないだろう。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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