日本のコロナ対策「寄り添う支援」が重要な理由 「帰りたくない」と帰宅を拒む軽症者の若者たち

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また、従業員は売り上げによる過酷なカースト制の店が多く、売り上げが低い者は1Kで8人など密な状態で暮らしています。職場では大声、回し飲みなどし、自宅でも密な状態。誰かが感染すれば瞬く間に広がり、休むと罰金を取られるため病状を隠して勤務をするのでまた拡大する。そして無理して働いて調子が悪くなっても家でくつろげない。現代版蟹工船と言えます。

「帰りたくない」と帰宅を拒む若者たち

さて何日か経つと病状も安定し検査でも陰性になり退院となります。ここで退院を拒否した若者が数多くいました。それはそうです。初めて1人でベッドを使えた、3食食べられた、人が優しくしてくれた──。蟹工船には誰もが戻りたくありません。ドアの内側からカギをかけて出たくないという若者たちに職員は説得し続けました(この経緯について行政は公開してほしい)。

私が会った若者たちは非常に貧しく、貯蓄もなく、実家はなかったり戻れるような環境ではなく、偏った食生活、周りはライバルばかりで誰も信用できない、この仕事で成功しなければ死ぬしかない、客による過剰な束縛や連絡の対応で疲弊したなど、せきを切ったように話してくれました。

見た目は着飾っていて装飾品はよいものでも、社会階層、とくに学歴は低く、家庭環境は複雑な方が多い状態でした。私はその残酷な半生を聞くたびに、夜の街を好んで選んだのではなく選ばされた人生、そして若者、教育、福祉に投資しない国の末路を見ました。

一方、4月には自粛生活が始まり、その不安やストレスは、クラスター班の班員やその家族への脅迫、そしてパチンコ店や夜の街関連の人々に向かいました。パチンコや夜の街については、依存症などさまざまな課題があります。しかし福祉の視点で言うと、就職すれば衣食住が補償できる数少ないセーフティーネットの1つという現実があります。他国は住宅の補償など手厚い政策があることに比べ、わが国は子どもだけでなく青年期(30歳程度まで)への支出が先進国随一に少ない国です。

日本は国が青年期の支援をしないため、住宅補償は企業が大きな役割を担っていました。例えば建設関連業者が寮付き住宅などで労働者の生活を安定させるなど、人を育てることをしていました。私もソーシャルワーカー時代、非行に走った子どもたちが建設関連業者の支援によって立ち直っていく姿を見てきました。

しかし建設業界はもう人を育てる余力がなくなり、厳しい環境の方々が活用しやすい身近なセーフティーネットはもうパチンコや夜の街関連ぐらいしかなくなってしまいました。飲食業もありましたが、今は壊滅的な打撃受けています。そしてクラスターの発生により、それらの業種がたたかれている状況です。

私は4月上旬、ほかの先進国のコロナ対策に従事する方々と連携して、そのような方々の補償についてどうしているか議論しました。結論として日本以外の国は、夜の街関連だけでなく、自粛(海外では営業停止等)については業種問わず補償をしたのです。どの推計を用いても「補償額<経済損失」なのですから、業種を区別せず補償して休んでいただいて感染リスクを減らす以外ありません。

わが国は補償を支払わない自粛を選び、職種により選別をすることを当初始めました。福祉を学ぶとわかるのですが、分断や排除をするとどうなるかは歴史が証明しています(この傾向は薬物、アルコール、ギャンブル、虐待、DVなどすべて同様の傾向です)。排除された人は、コロナになっても隠したり、本当のことを言わなくなります。いわゆる地下に潜ります。その傾向は如実に表れ、保健所の面接でも組織的に真実を言わなくなってきてしまいました。

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