北京に住む日本人が見た中国政府のコロナ対応 「未知の事態」への対応は遅すぎるものだった
この2つは、あくまでも内部通知である。一般的な庶民が最初に知った内容は、31日の発表が全てだった。概要は以下のとおりである。
「最近、一部の医療機関で、華南海鮮城に関係をもつ肺炎が多数見つかった。これまでのところ27人の患者が見つかっており、うち7人の症状が重いが、他は安定している。2人は退院した」
華南海鮮城とは、総面積5万平方メートルに及ぶ武漢市内の水産物の卸売市場。患者の症状と扱いについてこう説明していた。
「主な症状は発熱、少数の患者には呼吸困難、両肺にびまん性浸潤影が見られる。患者は全て隔離治療し、濃厚接触者の追跡と医学観察を進めている」
びまん性浸潤影とは、レントゲン写真に病巣が白く濃い影で写る状態。肺胞からの出血などを示している可能性がある。更に最初の発表には、後に禍根を残す2つの判断が示されていた。
「人から人への感染はない」との判断
「上記の症例はウイルス性の肺炎である。目下のところ明確な人から人への感染現象は見つかっておらず、医療従事者の感染も見つかっていない」
初期的な検査などの状況による分析と前提をつけていたものの、「人から人への感染はない」と判断した。これが1つ。もう1つは、ウイルス性の肺炎は冬や春にはよく見られ、爆発的に流行する可能性もあるなどと説明した上で示した次の見解だ。
「この病気は予防抑制できる。予防策としては、部屋の換気をよくし、密室や換気の悪い公共の場所や人が多い場所を避け、外出の際にはマスクをする」
「人から人への感染はない」と「予防抑制できる」という過信。この2つの判断は、刺さったまま抜けない毒矢のように武漢を内から蝕んだ。
翌1月1日、武漢市はその海鮮市場を営業停止にした。その翌週1月9日には、この病原体が新型コロナウイルスと特定される。国営メディアが一斉に報じたが、そのニュースが持つ意味を理解できた市民がどれだけいただろうか。
少なくとも、世界の感染拡大の震源地となった武漢では、未知なる感染症の脅威よりも春節の祝賀ムードが勝っていた。
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