都内タクシー狙う「令和の当たり屋」卑劣な手口 銀座、六本木で相次ぐ関西弁恫喝男による被害
目視で、先輩の車が後ろにつけているのを確認する。信号が青に変わり、左折しようとしたその時、不自然に車と車の間を通ってきた1台の自転車が外側のフェンダーミラーを擦っていった。大野さんに“当てた”という感覚はなかったというが、男性が自転車を降り、こちらに向けて手を挙げてジェスチャーをしている。
「やってしまったかもしれない」
想定外の“事故”により、大野さんの頭は真っ白になった。
「降りてこいや! まず謝るのが先やんけ!」
コテコテの関西弁でまくしたてる男は、開口一番にそうすごんだ。身長は170センチ前後で、中肉中背。見た目は30代前半に見えるが、Tシャツ、半ズボンにサンダルを合わせた服装に、スポーツタイプの自転車といういでたちは、とても会社員とは思えなかった。
男性の呼びかけに応じ、車を降りたことで悲劇は始まった。
「バリバリの関西弁で攻められて、ビビってしまったんでしょうね。そして、そのあとは急に口調がトーンダウンして、雑談が始まった。その緩急にやられてしまったんです」
話し合いは実に50分にも及んだ。辟易した大野さんは、警察を呼んで事故として処理しようとしたという。だが、この男性は話を濁し、「このあと予定もあるし、事を荒立てたくないので、警察を呼ばなくても解決できる方法がある」と提案してきたのだ。
自転車の転倒はなかったが、男性は腕にケガを負ったと強く主張する。突然自分の趣味だというサイクリングの話をしてきたかと思えば、レントゲンの相場はだいたい2万円ほどですよね、と持ちかけてきたという。
「完全にシナリオができ上がっていた」
「今から思えば、完全にシナリオができ上がっていた。『このあと用事があり、急いでいて、警察を呼ぶと現場検証や調書をとったりと時間がかかる。運転手さんも免許の点数引かれたくないでしょ。タクシーセンターに連絡を入れましょうか? それよりももっと建設的な解決方法もあるはずなので話し合いましょう』というんです。
タクシードライバーなら誰しも、免許の点数は引かれたくない。保険の手続きも複雑です。そして何より、事故を起こすと会社からの追及も受けるし、収入に直結する。
男性からは、直接的な金銭要求はありませんでしたが、私は3万円くらいのお金で解決できるならそうしたいと思い、財布を取りに車に戻ろうとした。事故を起こしてしまったかもしれないという緊張感と、長時間に及ぶ話し合いで私の頭は完全に麻痺してしまっていたのです」
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