山口達也への強烈すぎる批判が本質ではない訳 個人擁護の必要はないが要所が抜け落ちている

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現在の社会は、一度「失敗を犯した人間」「許されないやつ」とみなされてしまうと、周囲の人々から孤立。仕事関係者から拒絶されるだけではなく、家族や友人からも関係を絶たれかねません。そのように孤立すると、精神・肉体・金銭のすべてで苦しみ、ホームレスになる人もいれば、自死を選ぶ人もいるなど、生きていくこと自体が難しくなってしまうものです。

近年、「『罪を憎んで人を憎まず』はきれいごと」と言い切る懲罰感情の強い人が増えていますが、実際は「罪を憎まず人を憎む」という偏った状態で留まっていることに気づいていません。罪を憎むことができる人は、おのずと誰かを批判するよりも改善策に目が向いていくものですが、誰かを批判して爽快感を得るだけの人は、罪を憎むところまで到達しないものです。

これはビジネスシーンでもまったく同じで、「仕事ができないことを憎んで、仕事ができない人は憎まない」ことが大切。「仕事ができないことではなく、仕事ができない人を憎んでしまう」と業務は改善されないうえに、組織全体のムードが悪くなり、結果的に居心地が悪くなり、自分の評価も上がりません。

すぐに買えるアルコール依存から抜け出す難しさ

今回の報道を見ていて、もう1つ気になったのは、「なぜ山口さんは問題を起こしたあともお酒を飲んでしまうのか?」というモラルを問うようなフレーズを掲げるメディアが多かったこと。このようにメディアがモラルを問うようなフレーズを使ってしまいがちなのは、アルコールに関する情報と、当事者への優しさが足りていないからでしょう。

過去にアルコール依存症に関わる施設のスタッフにインタビューした経験がありますが、「なぜお酒を飲んでしまうのか?」と気軽に問いかけられないほど、当事者もスタッフも必死に社会復帰への道を模索していました。アルコールは薬物とは異なり、違法ではなく市販されているため、物理的な接触をさけることは極めて困難。コンビニやスーパーで見つけたお酒につい手が伸び、「少量なら大丈夫かな……」と再開してしまう人が少なくないようです。

個人差こそあるものの、「専門施設に入って長期間のプログラムを受けた人でも、半数前後の人がやめられない」という厳しい現実も聞きました。「飲酒して、問題を起こして、孤立してしまう。孤立したから、また飲酒してしまい、また問題を起こしてしまう。すると、ますます孤立し……」という負のサイクルから抜け出すのは難しいようなのです。

山口さんがアルコール依存症なのかはわかりませんが、一度にあれほど多くのお酒を飲む人が、どんなに批判の声を浴びたところで、苦しみこそすれど、すんなりやめられるとは思えません。今の山口さんに必要なのは、「なぜ自分はお酒を飲みたいと思うのか?」「自分にとってお酒は本当に必要なのか?」を自ら考え直す姿勢であり、生活習慣を変え、社会復帰を後押ししてくれるサポート役の存在。それが得られさえすれば、芸能界復帰は別としても、充実した人生を送ることは十分可能でしょう。

また、山口さんに批判の声を挙げている人は、ぜひそのパワーを優しさに変えて、「下げ止まりの状態が続いている」と言われる飲酒運転の撲滅に活用してほしいところ。お酒にかかわる問題を解決するためには、当事者の努力が必要なのはもちろん、ともに生きる人々の優しさが必要なのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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