テレワークで増加する「無自覚パワハラ」の惨劇 企業に対策義務付け、告発の標的となる管理職

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女性の管理職登用を推進する過程で、いつしかパワハラ行為に陥っていたケースもある。

中堅建設会社で施工管理部長を務める加藤昌彦さん(仮名、48)は、手厚い指導で能力を身につけさせ、2年前に社内で初めてとなる女性の現場監督(施工管理者)を誕生させた。20歳代後半の女性現場監督との関係に亀裂が生じ始めたのは、コロナ禍でソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が求められ、以前のように現場には出向かず、メールで指示するようになったときだった。彼女はその半年前に結婚していた。

女性現場監督からパワハラで訴えられたのは、その1カ月後のこと。

「せっかく現場監督にしてやったんだから、しばらくは出産を控えて仕事に専念してくれよ」──。このメール文がパワハラ認定の根拠となった。「出産を機に、責任のある仕事に就くことを拒む女性を見てきたので、そうならないためのアドバイスだった」と、加藤さんは釈明する。

パワハラと認定され、1週間の出勤停止の懲戒処分を受ける。女性部下は告発直後から欠勤が続き、2週間後、退職願を郵送で提出してきた。

「実は彼女から相談を持ちかけられ面談する予定でしたが、コロナ禍に見舞われて実現しなかった。面と向かって話していたら、状況は変わったかもしれません。辞職に追い込み、無念です」

やるせない心情を明かす。

マニュアルでは対応できない今後のパワハラ防止策

パワハラは被害者の精神と肉体を蝕み、辞職、さらには自殺をも招きかねない。加害者側にもキャリアに大きな傷がつく。非常に深刻な問題だ。一方で、メディア報道やSNSの影響もあり、情報の受け手が十分に理解する前に知ったつもりになり、「パワハラ」というキャッチーな言葉も相まって、本来の深刻な意味を離れ、独り歩きしている感も否めない。

管理職はパワハラ防止に最大限の努力をしなければ、容易に「加害者」になってしまう可能性がある。だからといって、告発を恐れるあまり、部下への指導などができなくなっては元も子もない。管理職はまず、自身の価値観を部下に押し付けないこと。仕事に対する考え方の違いを認識し、それを前提に指導にあたる必要がある。

上司世代は競争心が強く、上司の言うことにたとえ異論があっても従ってきた人が多いだろう。一方、部下の若手世代は競争よりも協調、仕事よりも私生活を重視する人が少なくない。

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テレワークは、コロナ禍の一過性のものではない。近い将来、育児、介護に取り組み、またリカレント教育(社会人の学び直し)を受けながら、多様な働き方を実践するために必須となるだろう。対面でコミュニケーションを取らないことによるリスクを踏まえ、ICTをうまく使いこなさない限り、今後も想定外のパワハラは増えていくと考えられる。

パワハラ防止は、単にマニュアルを頭に叩き込めばよいというものではない。新型コロナウイルス感染症がいつ収束するのか不透明な中、管理職にはあらゆる職場環境を想定し、対策を実践できる柔軟性と発想力が求められている。

奥田 祥子 近畿大学教授、ジャーナリスト

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おくだ しょうこ / Shoko Okuda

京都市生まれ。元読売新聞記者。博士(政策・メディア)。1994年、アメリカ・ニューヨーク大学文理大学院修士課程修了後、新聞社入社。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。専門は労働・福祉政策、ジェンダー論、メディア論。2000年代初頭から社会問題として俎上に載りにくい男性の生きづらさを追い、対象者一人ひとりに継続的なインタビューを行い、取材者総数は500人を超える。2007年に刊行した『男はつらいらしい』(新潮社、文庫版・講談社)がベストセラーに。主な著書に、『男性漂流 男たちは何におびえているか』(講談社)、『「女性活躍」に翻弄される人びと』(光文社)、『夫婦幻想』(筑摩書房)などがある。

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