なぜ日本人はチャイナドレスが好きか? 大戦前の複雑な心境が生んだミステリー

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中国は2000年もの間、日本がお手本としてきた先進国だった。ところが明治以降、日本はヨーロッパに目を向けて近代化を進め、中国との関係は変わっていく。洋画家の中には、パリやロンドンに留学して、直接、ヨーロッパ文化に触れた人も少なくなかった。ヨーロッパ文化を知った日本人があらためてアジアを見たとき、油絵で中国服の女性像を描くという営みが生まれたと貝塚さんは言う。

「屈折したと言うと言いすぎかもしれませんが、第2次世界大戦前の日本人洋画家男性の複雑な思いが込められているのではないでしょうか」

普段着がチャイナドレスの才媛

安井曾太郎『金蓉』 1934年 
油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館蔵(6月10日から展示)

安井曾太郎の『金蓉』は、教科書で見た人もいるのではないだろうか。日本の近代絵画を代表する作品のひとつとされている。

「背景の薄いピンクに藍色の中国服が映えています。頭のところで背景の色が分かれ、対角線上に人物を配置するなど、色のバランスと構図のバランスが完璧」と貝塚さん。

モデルの小田切峯子は、英語、中国語など5カ国語を話す才媛で、父親は上海総領事を務めた外交官だった。普段から中国服を着ている娘に、父親は「金蓉」という中国風の愛称をつけた。彼女の提案で、それが絵のタイトルになったという。親しくしていた細川護立が安井に注文した肖像画だ。

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