現在のマネー膨張は「インフレの芽」なのか

「貨幣数量説」がなぜ現実に当てはまらないのか

M2を構成項目別に見ればよくわかる。日本のM2とその構成項目の動きを追ってみると、現在のM2の大きな伸びは貸し出しや給付金の振り込みなどで増加する預金通貨(いわゆる当座・普通・貯蓄・通知・別段などの要求払預金)に牽引されたものと考えられる。それに次いで現金の保有(タンス預金など)の増加もうかがえる。財政措置による資金供給を②予備的動機から備蓄し続けるという行動の結果がM2急増の主因と考えられる。

為替に限らず、今後の経済・金融情勢を占う立場からは、急増したマネーがどのような影響をもたらすかを考える。その影響は多岐にわたるはずだが、仮に物価変動を貨幣現象と捉える「貨幣数量説」に立てば、「いずれ急激なインフレを招きかねない」という懸念を持つわけだ。

Vが一定という前提が間違っている

貨幣数量説は実体経済とマネーの関係について「名目GDP=貨幣数量(マネーストック:M)×流通速度(V)」と規定する。流通速度とは貨幣が実体経済で使われる頻度、速度、回転率などと理解される。2019年には、日本の名目GDPは約554兆円、マネーストック(M2)は約1040兆円なので、マネーは0.5回転(554兆円÷1040兆円)していたことになる。

このVは短期的には一定として議論が進められる。また、名目GDPは実質化すると、「名目GDP=物価(P)×数量(実質GDP:Y)」となるので、貨幣数量説は「MV=PY」と表現される。貨幣数量説の世界は「貨幣は経済取引を効率的に行うための交換手段でしかない」とする、いわゆる「貨幣の中立性」が成立する世界なので「Mを増やしてもYは不変」という考え方が前提となる。この時点でVに加え、Yも変化しない世界となる。すると「M=P」だけが残り、「急増したマネー(M)の結果、物価(P)が押し上げられる」という「インフレの芽」を警戒する姿勢につながってくる。

このような議論を突き詰めると相当な紙幅が必要になるため漏れなく議論することは控えるが、現段階で「インフレの芽」を意識することは性急だといえる。足元では裁量的なマクロ経済政策が異次元の規模に達していることから、アフターコロナにおける資産価格の騰勢は警戒すべきである。だが、それをもって一般物価の急騰まで想起するのは飛躍がある。以下、説明しよう。

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