開発競争で跋扈する「ワクチンスパイ」の正体

水面下でロシアや中国の競争が加速している

アメリカ国土安全保障省は、こうしたサイバー攻撃について製薬会社や大学に警告を発し、セキュリティー対策の見直しを支援した。当局の監視結果によれば、ワクチン情報を狙ったハッカーは主に未対応のままとなっているネットワーク上の脆弱性を突いてきており、まだ知られていないセキュリティー上の穴を狙う一段と高度なサイバー攻撃用の「武器」を用いているわけではない。

ハッキングによってデータが盗み出されたと発表している企業や大学はまだない。しかしアメリカ政府のある関係者によると、一部のハッキング活動は少なくとも防衛網を突破してコンピューターネットワークに侵入することには成功した。中国とロシアのハッカーはネットワーク上の弱点を日々探り続けている、と複数の情報機関当局者が口をそろえる。

「敵対国によって脆弱性につけ込まれる前に、そうした脆弱性を見つけ出して修正プログラムを配布できるかという、まさに時間との闘いになっている」と、国土安全保障省でサイバーセキュリティーを担当するブライアン・ウェア氏は語る。「状況はこれまでになく厳しい」。

「旧ソ連時代に逆戻りしたかのよう」

これまでにハッキング行為が公表されたのは、ロシアと中国でそれぞれ1つ、つまり合計2チームのハッカー集団にとどまっている。ただ警察および情報機関の関係者によると、ロシアと中国のほぼすべての情報機関が複数のハッキングチームを使ってワクチンに関する情報を盗み出そうとしているという。

ロシアは8月11日にワクチンを承認したと発表した。が、これを受けて、ロシアの科学者はスパイ機関が他国から盗み出した研究情報を少なくとも参考にしたのではないか、との疑惑が瞬時に持ち上がった。

ロシアは長年にわたり、アメリカ社会の分断を深刻化させようとしてきたことで知られる。国家安全保障に関する現職および元当局者らは、ロシアは最終的には西側諸国で承認されるあらゆるワクチンに対して偽情報を拡散するようになるはずだ、と語った。

「旧ソ連時代に逆戻りしたかのようだ」。国家安全保障会議(NSC)の元高官で、トランプ大統領に対する弾劾公聴会でも証言したロシア専門家のフィオナ・ヒル氏はこう語る。

「ロシアと中国は偽情報を広める活動を展開している。そして、偽情報による混乱でアメリカをさらに弱体化させるには、ワクチン反対運動をあおり立てるのが最も効果的だ。その一方で、自分たちは全員確実にワクチンを打つつもりだろう」

(執筆:Julian E. Barnes記者、Michael Venutolo-Mantovani記者)

(C)2020 The New York Times News Services 2020 

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