崎陽軒の台湾「シウマイ弁当」にマグロがない訳 初の海外進出に秘められた試行錯誤の舞台裏
崎陽軒が台湾への進出を検討し始めたのは、2017年のことだった。
「弊社が拠点にする横浜市は、日本で2番目に人口が多い都市です。しかし、これから人口が減っていく時期に入ります。横浜といえば、日本国内のお客様には街に漂う異国情緒が人気なのですが、その異国情緒を外国の方は求めないんです。それもあってか、インバウンドが弱い。お客様を待っているだけではダメだ、と海外に打って出ることにしました」
数ある中から最初の出店先として白羽の矢が立ったのが、駅弁のある台湾だった。2018年、2019年と台湾における催事に参加し、マーケットリサーチを重ねた。西村氏は言う。
「これまで15回ほど台湾に行きました。行ってみると、同じように見えるけれど、日本とはいろいろな点で違いがあることがわかりました」
崎陽軒流を変えるところと変えないところ、その境目を見極めながらの進出となった。
豚肉輸入で揺れる台湾
崎陽軒といえばシウマイ、シウマイといえば豚肉である。
1908年に横浜で創業した崎陽軒の経営理念には、ローカルブランドを目指すことがうたわれている。現地の食材を利用するのは当然だと考えていた。
ジェトロ(日本貿易振興機構)やTAITRA(中華民国対外貿易発展協会)の協力もあり、大手の豚肉業者とつながることができ、今は安定的に台湾産の豚肉を、指定の部位や量で届けられるまでになった。核となる商品であるシウマイのレシピは、創業以来、海外進出しても変わっていない。
ところで今、台湾産の豚肉をめぐって、台湾は大いに揺れている。
8月29日、蔡英文総統が会見で、国際的な信任を得るため、アメリカ産牛・豚肉の輸入規制の緩和を発表した。馬英九政権時に、当時野党だった民進党の猛反対でおじゃんになったのだが、今回は年明けから緩和されることになった。国際的な地位を得るために人々の健康を売るのか、といった反対論も根強い。
台湾での肉消費量のトップは豚肉だ。骨から尻尾まで、使わない部位などない。普段の食生活から祭事に至るまで、豚は台湾の暮らしに欠かせない食材だ。
牛肉については以前から輸入されていたが、豚肉は今回が初めて。台湾産豚肉の価格が下落するのではないかとの見方もある一方、来年はブランド豚の育成に力を入れて、アメリカ産に対抗する意向を示す台湾産豚肉の生産者も現れている。
すでに輸入は既定路線となっているようだが、輸入後の措置はなおも協議中。牛豚肉の加工業者に対する原産地表示の義務付けや罰則規定など、課題は多い。
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