崎陽軒の台湾「シウマイ弁当」にマグロがない訳 初の海外進出に秘められた試行錯誤の舞台裏
話を崎陽軒に戻そう。
同社のシウマイが「冷めてもおいしい」をコンセプトにしていることは、崎陽軒に多少なりとも詳しい人なら誰もが知ることだろう。だが、台湾ではこの大きなコンセプトそのものが、通用しない。
初めて崎陽軒が台湾での催事に参加した際、「なぜシュウマイが冷たいんですか」と質問された。そこで発覚したのが、日台の食文化の違いだった。
台湾には「台鐡便當」という弁当がある。台北駅のほか、地方の大きな駅で販売され、市内にはショップもあれば、最近ではコンビニ展開も始まった、弁当の大手である。この弁当、台北駅の建物内に弁当を作る場所があり、温かい状態で客に提供される。
駅弁だけではない。台湾の学校は給食完備ではなく、学校によっては毎日、親がお昼どきにできたばかりの弁当を届けるところもある。持参してきた生徒の弁当は、クラスごとにコンテナで温められる。
つまり、台湾の弁当は温かいのが大前提なのだ。
崎陽軒の店舗で販売されている弁当は、セントラルキッチンで製造され、各店舗に届けられてきた。ただし、台湾ではそうはいかない。おまけに建物の規定で火が使えない。
そこで「シウマイBAR」として運営しているバルで行っていた方法を、今回初めて弁当の店舗に応用することにした。店頭に蒸し器とたこ焼き機を設置し、そこで温かいままでシウマイを出す、というやり方だ。
台北店の店頭に設けられた大型のたこ焼き機は、日本から持ち込んだ。今、店頭では、その動きに足を止める客も多い。
塩分を減らすために減らしたあのおかず
催事への参加で気づかされたのは、弁当の温度の問題だけではない。
「辛すぎる」――。自信を持って出したはずのシウマイ弁当に、台湾の客から辛口の評価が相次いだ。とりわけ不評だったのが、マグロの漬け焼きだった。
「刺し身にしてもいいくらいの切り身を使っているのに、しょっぱすぎて食べられないと言われ、衝撃を受けました」(西村氏)
台湾の味付けは薄味が基本である。在台歴の長い日本人で台湾の食事に慣れた人ならおそらく共通して実感しているが、日本食は決して薄味ではない。むしろ日本食を薄味と思っているのは、日本人だけかもしれない。
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