1平米で11円、「掃除機のサブスク」がアツい理由 循環型経済を生き抜くのに不可欠な発想の転換

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ミシュランはタイヤに取り付けたインテリジェント・センサーから、課金のための走行距離データを収集。同時に、燃料消費量やタイヤの空気圧、スピードの出し方、そのときの気温、さらには路面状況といったタイヤにまつわるさまざまな情報を入手しています。

そもそもタイヤ業界は、日本のブリヂストン、フランスのミシュラン、それにアメリカのグッドイヤーの3社で高いシェアを占める3強時代が長らく続いていました。ところが近年、中国の中策ゴムや韓国のハンコックタイヤといったメーカーが勢力を伸ばし、激しいパイの奪い合いを展開しています。

新興勢力は市場価格より安く販売して競争に勝とうとするし、既存組はそれに対抗するために製品の性能をさらに上げるか、価格を下げざるをえない。加えて、原材料の価格が上がり、人件費も年を追うごとに膨らむなど、生産コストは上昇する一方です。このままでは企業として疲弊し、今後の成長を見込むのは厳しいばかりか、生き残れません。

年々深刻化する物流業界の人手不足という課題もあります。タイヤ交換やメンテナンスといった保守・点検をミシュランが請け負うことで、運送会社は物流だけに専念できます。結果的に輸送効率が高められますし、保守・点検のノウハウがない経験の浅いドライバーも雇うことができます。ミシュランは業界の課題解決にも貢献できるのです。

「サービスとしての製品」の拡大余地

私がこの「サービスとしての製品」で高く評価したいのは、多くのメリットと可能性を引き出せるところです。

利用者にとっては、製品を購入するという巨額の先行投資がなくなり、メンテナンスにかけていた時間やコストも削減できます。限られた時間や時期しか使わず、わざわざ購入する必要がない製品、買い替えやアップ・グレードでつねに最新モデルを求められるような製品を、このビジネスモデルによって適切に活用することができます。 

一方、製品を所有する立場の企業にとっては、買い手に製品を買ってもらうために、買い替え時期ができるだけ小刻みになるよう仕向ける必要がなくなります。すぐに劣化したり、機能が劣ったりといった「計画的陳腐化」から脱却できるのは大きいでしょう。

『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ社)。書影をクリックするとアマゾンの販売サイトへジャンプします

製造工程でも、最初からリサイクルを想定した設計や素材を選び、製品自体もなるべく構造を簡単にして、分解しやすく修理しやすい製品を目指します。このようにすれば製品や原料を長く使い続けることができ、結果としてコストや資源の無駄遣いを抑えることができます。

また、原則一度限りで終わっていたユーザーとの関係が、持続的で緊密なものに変われば、細かなユーザー動向をつねに更新しながらつかむことができます。使い方や頻度に応じた製品の情報を詳細に知ることができ、顧客数や年数が重なることで貴重なビッグデータを手に入れられます。

ここから新たな商品開発を発想できるかもしれないし、予想もしていないイノベーションが生まれるかもしれません。何より、顧客たちのビジネスの進め方や日々の仕事の仕方、社員たちのライフスタイルといった、本業だけにとどまらない、時代性や社会トレンドまでがキャッチできるのは、企業にとってはとても有用なことではないかと思います。

作って捨てるリニア(直線)型経済から、使い続けるサーキュラー(循環)型経済へ。コロナ禍で長期にわたる景気後退が予想されることから、当初は経済もリニア型へ逆戻りするのではないか、という懸念がありました。しかし、現時点で機関投資家のESG投資志向はこれまでと大きく変わることはなく、むしろ拡大しているといっていい状況です。

サーキュラー・エコノミーへいかに移行できるか。10年後、30年後も生き残る企業になるためには、ここ5年が勝負だと私は考えています。

中石 和良 一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 代表理事

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なかいし かずひこ / Kazuhiko Nakaishi

松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画業務に携わる。その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)を設立。2018年に「サーキュラーエコノミー・ジャパン」を創設し、2019年一般社団法人化。

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