メーカーの商品開発に「物申す」顧客が必要な訳 ドイツのスポーツクラブとモノづくりの共通点

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島田氏が描くifLinkのコミュニティは、このドイツの市民主体の「スポーツクラブ」の社交のあり方を1つのモデルと考えているそうだ。島田氏はシーメンス社に出向していた時期があり、このときにドイツに住んだ。子息がスポーツクラブに入ったことから、親としてその様子を目の当たりにした。

島田氏が驚いたのは、親同士のフランクな交流が始まったことだった。というのも、会社の同僚から「ドイツ人とは友達にはなれない」と聞かされていたからだ。日本とは比較にならないほど「知り合い」と「友達」の間に大きな差があり、「友達」は1人か2人というのが、ドイツ社会の人間関係だと聞いていた。

それが「スポーツクラブ」というコミュニティに入ったとたん、コミュニティの一員として交流ができ、外国人であってもクラブのために大小さまざまな貢献をする機会ができた。例えば試合などがあると、手作りのケーキやコーヒーを用意し、小さなスタンドを作って販売する。そういった交流を通して、島田氏は一気にドイツの社交空間に入ることができた。

ドイツ語の2人称には「あなた」(社交称)と「おまえ」(親称)の2種類があり、「おまえ」(親称)になるには思いのほか時間がかかる。だがクラブのメンバーになると、その日から相手が学生であろうが、大企業の社長であろうが「おまえ」という呼び方になる。

クラブのコミュニティの中では対等であるがゆえに、外国人だろうとメンバー全員にクラブへ貢献する自由、何らかのイニシアティブを取る自由がある。これらは、コミュニティに参加しつづける楽しさにつながる。自分がもつ資源(時間や技能など)を提供する行為だが、自己決定ゆえに「損をした」と思う人は通常いない。

オンラインコミュニティでフランクな交流ができるのか?

ここでifLinkオープンコミュニティの話に戻す。企業人としての立ち位置や人格を取っ払って、ドイツのスポーツクラブのようなフランクな交流はできるものだろうか。企業人としての人格から解き放たれたとしても、「年功序列」「空気を読む」などの人間関係が足を引っ張るのではないか。

この疑問に対して島田氏は、「気軽さ」と「当事者意識」という2点から理想の交流文化の可能性を示す。まず気軽さという点では、コミュニティ内の交流を通じて、試行錯誤ができる機会をとにかく多くする。次に当事者意識だが、メーカー主導でやりすぎなくらいのユーザーへの「ソリューション提供思考」をやめ、「ソリューションはコミュニティに参加している、あなた自身が考える」ことを促す。

ドイツのスポーツクラブに見る社交をモデルとするならば、コミュニティのメンバーが持つ技術やアイデアといったリソースを自主的に贈与し続けるサイクルがコミュニティ内にできるかどうかが実現のカギを握るだろう。この連鎖によって新しい製品やサービスが生まれ、まわりまわって経済的利益につながるというのがifLinkオープンコミュニティの「ビジネスモデル」ということになる。いうなれば、「贈与型コミュニティ」という製造業の新しいモデルだ。

「このオープンコミュニティは、一種の社会実験という側面もある。日本社会全般に影響を与えられるコミュニティとなり、またコミュニティで生まれたアイデアを基に仕組みやサービスを作ることができる状態になった段階で国外へ持っていくことも視野に入れている」と島田氏は展望している。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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