寿命が「運命任せ」から「選択」の時代に変わる訳 「老いなき世界」はどこまで科学されているのか

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例えば、メトホルミンという薬は、承認された安全性のとれている薬で、1剤5円程度と非常に安い。今までは、2型糖尿病の治療薬として使われてきましたが、どうやら癌を抑制し、脳の機能が改善している可能性もあるとわかってきました。

高価な薬を飲んだり、遺伝子治療を受けたりするという路線だけでなく、安い承認薬をうまく使ってエイジングを制御する方法もあるわけです。まずは何を飲むと、自分の何を制御できるのかを知り、高いものから安いものまで、どんな選択肢があるかを知ることでしょう。

それに、お金を使いたくないなら、自分でカロリー制限すればいいわけです。我慢もできないけどお金も払いたくないし、寿命は延ばしたいというのは、ちょっとわがままですよね。

さらに、健康長寿の時代になれば、人生の終わりを自分で選択するということもありえます。実際にヨーロッパには安楽死制度があります。こういった話には拒絶反応を示す人が多いのですが、日本人も衝突を恐れず、もっと人生や命を自分で選択するということについて、議論したほうがいいと僕は思います。

『ライフスパン』は、一見「サプリとかの話でしょ?」という表面的な理解になりがちかもしれませんが、社会構造全体と未来の選択を考えるための本と捉えてみると、違う視点が持てるのではないでしょうか。

「寿命」もプランニングしていく時代

日本では、まだまだ積極的にいろんなものを飲むという感覚は薄いです。宗教的感覚から来るものかもしれませんが、薬に対する拒否反応があるのは間違いありません。それに加えて、サイエンスのリテラシーの低さという問題があります。日本ではサイエンティフィックな日常会話はほとんどありません。

ただ、最近は日本の小学校も少しずつ変わってきて、勉強は「覚えるもの」ではなく「楽しむもの」だという風潮ができています。この流れで「サイエンスは楽しいものだ」という感覚が育つといいなと思いますね。

僕が代表理事を務める一般社団法人ASG-Keioが主催するオンライン・サイエンスフォーラム「Scienc-ome」では、高校生にも参加してもらい、若い世代がサイエンスを楽めるような活動もしています。

最近は、新型コロナの自粛生活の中で、自宅で筋トレをしてアミノ酸サプリを飲むことが流行っており、大丈夫かなと思いながら見ていました。エイジングの領域では、アミノ酸制限が常識なのです。エイジングは積み重ねでもあります。若いときの不摂生が、将来的に老化として進む。コロナの時代にアミノ酸サプリを飲んでいる人は、それが将来、脳や血管など、なにかの問題として出る可能性があります。

それを打ち消すための方法はもちろんありますが、自分のプランニングがないままというのはやはりよくないですね。そんな中、家族や社会を含めた自分の人生を、自分の考えで積極的に選択していくための最前線の方法が、『ライフスパン』には詰まっていると言えるでしょう。

早野 元詞 慶應義塾大学医学部特任講師、株式会社坪田ラボ Chief Scientific Officer(CSO)

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はやの もとし / Motoshi Hayano

老化、エピジェネティクスが専門。DNA複製研究に従事し、2011年に東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程(生命科学)にて学位を取得。米ハーバード大学医科大学院のデビット・A・シンクレアのラボに留学後、2017年に現職。ANRI株式会社、株式会社慶應イノベーション・イニシアティブなどのベンチャーキャピタルでシーズソーシング業務に携わっている。

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