カバはなぜ、「口の大きさ」競い合いたがるのか 知能を活用する哺乳類ならではの高度なルール

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ほかの例もあります。世界で最も大きなシカであるヘラジカは、とても立派なツノを持っています。シカのツノは戦うための武器ですが、ヘラジカのツノは大きすぎて、武器にするには使いにくいくらいです。

ヘラジカの世界ではツノの大きさが勝敗の決め手です(写真:Matt Dirksen/iStock)

もうおわかりかもしれませんが、ヘラジカの世界には、実際にツノを使って傷つけ合うことはせず、ツノの大きさで勝敗を決めるルールがあります。ツノが大きければ、もうそれで勝ちなのです。同じぐらいの大きさのツノの場合は、少しツノを突き合わせるくらいのことはありますが、それでも、本気で戦うようなことはありません。

オオカミやライオンなどのオスも、ときに激しく戦い合いますが、殺し合うまで戦うことはほとんどありません。どちらかが降参するか、逃げるかすれば勝負はおしまいです。生き抜いていくために、このような高度なルールを発達させたのです。

オスは「ルールを教える」存在

戦わずに勝敗を決める。こんな高度なルール作りは、知能が得意とするところです。しかし、こうしたルールは、体験から学ぶということはなかなかできません。「激しく戦い合えば、死んでしまう」「みんなで戦い合えば群れが滅んでしまう」ということを体験から覚えるとしたら、払う犠牲があまりにも大きすぎます。そのため、そのルールは、誰かが子どもたちに教え伝える必要があります。

哺乳動物では、そのルールを教える存在こそが、オスの役割なのです。メスは体の中で胎児を保護し、母乳で子どもを育てるという大切な役割があります。そして、オスがルールを教えていくという役割分担をしているのです。

哺乳動物の中には、オスが子育てに参加しないものもたくさんありますが、群れを作って暮らす動物のようにルールが必要な動物にとっては、オスの役割が重要なのです。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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