メルカリ「アメリカ攻略」でやっと掴んだ手応え 積極投資は不変「赤字も株価も気にしない」

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――直近の四半期では営業損益が黒字転換しました。

無理にでも黒字を出そうとしたわけではなく、一時的に費用を抑えることで結果的に営業利益が出た形だ。ただ前期末にかけては、新型コロナの感染動向、今後の景気、株式市場がどうなるのか、皆が不安になっている中だったので、“赤字会社”を経営している身としては「ワーストシナリオ」を想定して対応しなければと考えていた。

やまだ・ しんたろう/早稲田大学在学中、楽天でオークションサービスを立ち上げ。2001年にウノウを創業。2010年同社を米ジンガに売却。2013年2月にメルカリ(旧コウゾウ)を創業(撮影:今井康一)

そこから時間が経って、緊急事態宣言の解除後も感染者数の増減はあるものの、経済は持ちこたえているように見える。EC市場においても、外出自粛で高まった需要に反動が出ているわけではない。むしろ買い物の価値観が変わり、今後、EC化率は加速度的に上がる可能性が出てきた。こういう状況も見ながら、メルカリでは事業拡大に資するような先行投資を徐々に再開している。

経営の舵取りをするうえで、足元の黒字・赤字は正直気にしていない。株価も気にしていない。株価が上がれば、それは市場からの期待が強くなっている、評価していただいている証拠だと受け止める。だからといって短期的にでも上げたいという思いはなく、結果としてついてくるものだと思っている。

決算でも説明しているとおり、先行投資は長期的に飛躍するために不可欠なもの。もちろん費用対効果は厳しく見ていくが、各事業で機動的に行っていく方針は今後も変わらない。

こだわってきた「オンライン完結」

――その先行投資の先としても大きな割合を占めているアメリカのフリマ事業では、目標としてきた月間取引高1億ドルを達成しました。何が決め手となりましたか。

やはり、プロモーションが奏功した。テレビ、ラジオ、街頭広告など、どういう組み合わせ、内容、表現が最適なのか。昨秋からテストを重ねて、期待する効果を出せるようになったので、年末からは投じる金額を増やした。それによって認知度が以前より格段に上がり、コロナがあった後に「メルカリってサービスがあったな」と、消費者の想起が取れた。

アメリカのメルカリのスマホ画面(写真:メルカリ)

打ち出すサービスイメージは一貫して、誰でも簡単にモノを売れるアプリですよというもの。奇抜さはなく、シンプルに響くメッセージを前面に出している。

というのも、アメリカにはイーベイのような売買サイトがあるものの、事業者と個人の出品が混在するため、個人が売るとなるとハードルが高い。一方でクレイグスリストなどのクラシファイド(地域の募集広告や告知を一覧で掲載する媒体)を使って不用品処分を行うこともできるが、対面のやり取りが必要になる。オンラインで完結できるというのはメルカリならではの価値だ。

オンライン完結には創業時からこだわってきた。もちろん出荷の作業は必要だけど、それ以外は基本、家にいればいい。そのほうが売買のハードルが圧倒的に下がるので、より多くの人にリーチできる。だから時間と手間をかけて現地の配送事業者との提携も結んできた。コロナによって非接触型のサービスが好まれるようになり、アドバンテージは大きくなっている。

コロナ後の「新常態」とどのように向き合っていくべきなのか。「週刊東洋経済プラス」では、経営者やスペシャリストのインタビューを連載中です。(画像をクリックすると一覧ページにジャンプします)

――決算説明会では「アメリカ事業の継続を決定した」という発言がありました。撤退も選択肢として考えていたのでしょうか。

すぐに全部やめてしまうつもりはなかった。ただ、「月間1憶ドル」をコミットメントとして示してきたので、達成できなければ投資の縮小など何かしらの対応をしなければと思っていた。そういう考えも含めて投資家に伝えてきたので、「継続を決定」というのは、そのアンサーとして話した内容だ。コミットした目標を達成でき、さらに大きいスケールを目指して投資できる、きちんと回収できるという手応えを得られたのはよかった。

「週刊東洋経済プラス」のインタビュー拡大版では、「アメリカに次ぐグローバル展開」「コロナ禍のベンチャーの経営環境」などについても詳しく語っている。
長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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