大臣 増補版 菅直人著 ~「政と官」の関係変化を読み解くうえで有益
「政治主導」を掲げた鳩山内閣が発足して4カ月が経った。この間の政策運営については、脱「官僚依存」ではなく「脱官僚(元官僚)」依存になっているのではないかとの声も聞かれるが、政権交代を契機として「政と官」の関係に大きな変化が生じたことは確かだろう。本書はこの変化を読み解くうえで有益な示唆を与えてくれる。
本書に繰り返し登場するキーワードの一つは「官僚内閣制」である。日本の政治は、制度上は議院内閣制(国会内閣制)であるが、実際には「“補佐役”である官僚にコントロールされる“官僚内閣制”」になっていたと著者は言う。そして、このような政と官の関係を根底から見直し、「原理を変える」ことが、今回の政権交代の意義ということになる。大臣を中心とする「政」のチーム(政務三役)が政策決定の前面に躍り出て、かつては「盲腸」と評された政務官が政策調整に奮闘している現在の霞が関の光景は、政権交代による変化を印象づけるものといえよう。
本書を読んで感じたのは、霞が関における政策形成や組織運営において、情報というものが想像以上に重要な意味を持つということだ。大臣をはじめとする「政」が独自の情報源を持たないと、いつの間にか各省の「省益」の代弁者になってしまうことになる。とはいえ、政策形成に必要な情報の相当程度が官僚依存にならざるをえない現状では、政と官の関係において緊張と協調がともに必要ということになるだろう。
本書は民主党結党時(1998年)に執筆された旧版に、政権交代後の状況を加筆して刊行された増補版であるが、10年後に本書の続編が書かれるとしたら、それはどのようなものになるだろうか。「政と官」の新たな関係の今後が注目される。
かん・なおと
副総理・財務相。1946年山口県生まれ。東京工業大学理学部卒業。80年衆議院選挙に初当選。社民連副代表、さきがけ政調会長などを経て、96年第1次橋本内閣の厚生大臣。96年民主党を結党し、共同代表に。98年新たに結成された民主党の代表、政調会長、幹事長などを歴任。鳩山内閣の国家戦略担当相を経る。
岩波新書 840円 257ページ
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