「株主重視の物まね」日本は世界から周回遅れだ 社会変革するリーダー論「トレイルブレイザー」

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セールスフォースの3つの1%は、「1:1:1モデル」として知られている。1%といっても小さな規模ではない。セールスフォース5万人の社員全員が、入社直後から1年間の勤務時間のうち7日間をNPOへのボランティアに充てることができる。世界最高峰のエンジニアやコンサルタントが含まれた500人のNPOが生まれたようなものだ。

また、セールスフォースの時価総額は10兆円であるから、実に1000億円がNPOに充てられることとなる。

まず1%という数字を宣言することで、業績などの社内事情にかかわらず、セールスフォースは毎年毎年NPOにコミットすることを約束したことになる。また、株式、製品、従業員という会社を構成するもっとも重要な3要素での貢献を示したことで、社会貢献部署だけでなく、会社全体で社会に貢献するあり方も示した。

このような方針により、セールスフォースの本気が社内外問わず伝わっている。1:1:1モデルに世界中の会社が共感を示し、8500社以上が同様の取り組みを行うまでに影響は広がった。

東日本大震災では、ほぼすべての国内上場企業が寄付やボランティア、また、本業を通じた何らかの支援を行った。しかし、その後の災害でも一貫して支援を続けられているのは、フィリップ モリス ジャパンやマイクロソフトといった外資系が多い。

企業の社会貢献部署に任せるだけでは、支援にムラが出る。全社的な枠組みをもって社会貢献する企業が国内でも増えることを期待したい。

社会貢献が社員のロイヤルティを高める

「セールスフォースでは、入社初日からオハナの家族として迎えられる。私たちが何者で、何を行うのか、そして社内システムにログオンするプロセスをよく確認した後、私たちのバリューや、自分の選んだ非営利団体でボランティア活動をするために年7日間の有給休暇が取得できる仕組みについて説明を受ける」(198ページ)

オハナとは、ハワイ語でいう血縁に限らない家族的関係を示す言葉だ。セールスフォースでは社内での家族的関係を大切にし、またユーザーや取引企業ともオハナであろうとする。

また、セールスフォースの社会貢献活動を通じて、社員自身も家族の1人として大切にされていることに気づくことができる。セールスフォースでは、社会貢献を軸に、社員・顧客・取引先が強い関係で結ばれることになる。

企業文化と社会貢献が密接につながっていることで、社会へのかかわりが持続的になる。そして、社会貢献の継続によって社内の結束が強まるというフィードバックループが回るのだ。

東日本大震災では、コンビニエンスストアが復興に大きく貢献した。津波で流された町に、最初にできるお店はコンビニだ。コンビニがあることで、住民はその町に戻って生活することができた。

このように東北復興に貢献できた企業の社員は、自分たちの社会的意義を再認識できて、自社へのロイヤルティを高めた。逆に、「自社のサービスは東北に貢献できていない」と感じて会社を辞め、私たちの団体のようなNPOに転職した優秀な方も少なくなかった。

社会貢献につながる企業文化を持つことは、企業にとって必須要件になりつつある。

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