PCRをよくわかってない人に知ってほしい基本 新型コロナの検査になぜ使われているのか

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微生物を調べるために、綿棒などで採取した微生物をシャーレに敷いた寒天培地にこすりつけて培養し、そこから広がったコロニーの様子を見ることがあります。ロベルト・コッホが編み出した「純粋培養」という方法で、ここから微生物研究の歴史が幕を開けました。

しかし、この方法で調べられるのは、綿棒で釣り上げた微生物のうち、培地上でうまく成長したごく一部の種類の性質やふるまいだけです。採取したからといってすべてうまく培養できるとは限らず、身近な土の中の微生物でさえ、採取した100個のうちの1つが生えるかどうかだといいます。また、当然ながら、自然環境の中で微生物同士がどういう関係をもち、複雑な世界をつくり上げているのかという全体像をつかむこともできません。

微生物解析の新しい技術にも発展

1990年代に入ると、PCR法のしくみを応用して微生物解析の新しい技術が生み出されてきました。例えば、川や湖の水に溶け込んだDNAを解析し、その水域にどんな生物がどんな割合で含まれているか、ということさえわかるようになってきました。このような複雑な分析を、大量かつ高速に処理する技術を次世代遺伝子配列解析技術(シークエンシング)といいます。

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このような技術を使って新たにわかり始めたのは、世界は想像以上に微生物に満ちているということです。二十数年前には10兆個ほどと言われていた人の体内細菌の数も、今では100兆個以上だと考えられるようになりました。人の体細胞は37兆個と言われていますから、それをはるかにしのぐ数です。

しかしそれでも、私たちは微生物が織り成す世界の一端を理解し始めたにすぎません。その全貌を理解するには、まだまだ長い時間がかかることでしょう。菌類、原生生物、細菌類、そしてウイルス。微生物をめぐる研究は、ようやく今、新たなステージに足を踏み入れたばかりなのです。

左巻 健男 東京大学非常勤講師。元法政大学教授、『RikaTan(理科の探検)』誌編集長

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さまき たけお / Takeo Samaki

東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学教職課程センター教授などを経て現職。共著書に『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、
著書に『暮らしのなかのニセ科学』『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書)、『面白くて眠れなくなる人類進化』(PHP研究所)など。

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