日テレとテレ朝、明暗を分ける決算のある数字 「量から質」へ広告のターニングポイントがきた

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日テレの決算資料には、さらに詳細な視聴率データが掲載されている。個人視聴率は性別・年齢別でも計測される。それを基にした、20~34歳の女性を表す「F1層」や35~49歳の男性を表す「M2層」などと呼ばれる、性別・年齢区分による各層のデータも、日テレは決算資料の中で公表している。それを基に、在京キー局の属性別視聴率を見てみたい。

※単位:%
(出所)筆者作成

ここでは、「コア」層の視聴率、そして「ティーン」層(男女13~19歳)、「F1」層(女20~34歳)をグラフにして並べてみた。コアとは日テレが独自に設定した「男女13~49歳」に絞ったコアターゲットのことで、日テレは実は数年前から社内でこのデータを戦略的に重視していた。企業ニーズが高い層を彼らなりに集約したターゲット設定だ。この層の視聴率は日テレがだんぜん高い。ちなみにTBSも去年から彼らなりの戦略ターゲットを「ファミリーコア」と呼び、「13~59歳男女」と設定している。

属性別視聴率では、先の「世帯」「個人全体」とはまた違う様相が見えてくる。まず日テレが圧勝している。世帯や個人で見たときよりずっと日テレが強い。若者に注力してきた成果だ。そしてテレ朝は4位に順位を落としている。TBSが2位、フジが3位に浮上する。

この視点でみると、最近のTBSの若者シフトに気づく人は多いだろう。典型が火曜日22時のドラマ枠で、女性がキュンキュンする恋愛ドラマを徹底して放送している。世帯視聴率は高くないが若い女性には高く評価され、Twitterも大盛り上がりだ。

時代とズレた「ポツンとテレビ朝日」

テレビCMは今まさに、「量から質」に転換をはじめている。世帯視聴率という漠然と不特定多数に向けた「量」の指標が時代に合わなくなっている。だから個人全体視聴率に取引指標を変更したのだが、それだけでなく「コア」ターゲットを局として設定し、「質」を高めて企業ニーズにより応えようとしているのだ。

ネット広告の動向を書いた境治氏の新著『嫌われモノの<広告>は再生するか』(イースト・プレス)。テレビCMの指標の大きな変化についても説明している。書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

すべてがそうではないが、企業は若い層に広告を届けたがっている。その要望に応えるなら、若い層に局として戦略ターゲットを設定するのは当然の流れだ。もう高齢層に合わせた番組作りは時代に合わない。フジテレビとテレビ東京もターゲットを定めつつあるようだ。

ところが、不思議なことにテレ朝だけは、いまも社内で世帯視聴率を指標としていると噂で聞く。取引に使われなくなった、言わば“死に体“の指標のはずなのに、会議では平気で世帯視聴率を確認して次の番組作りに備えるというのだ。完全に時代とズレ、戦略を見失っている。ある他局の上層部が「ポツンとテレビ朝日」と揶揄して言ったと聞いたが、冗談でもなくなってきた。

最初に述べたように、いまテレビ局は新型コロナウイルス感染拡大に振り回されて大変な目に遭っている。だがいずれコロナが収束したとき、それぞれボロボロになりながらも次の時代へ立ち上がり、歩みはじめることだろう。そのときに、はっきり差が出ると私は考えている。「量より質」に方向転換できる局と、それを理解できない局と。ローカル局まで含めた放送業界の大転換がコロナのむこうに見えてきた。どの局がどう生き残るのか、ウォッチしていきたい。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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