ところで、今回の決算資料には面白いデータが載っていた。日本テレビの補足資料に視聴率のかなり詳しい表が入っているのだ。TBSの決算資料にも入っていた。そこで、この2局の資料を使って、全体が見渡せるグラフを作成してみた。
TBSの決算資料には今年度第1四半期の「世帯視聴率」のデータが載っている。その中のプライム帯(夜7〜11時)の数値を見ると、テレビ朝日が12.3%、日本テレビが12.2%と、テレ朝がトップだ。視聴率競争では、日テレの牙城をテレ朝が猛追していると言われていた。ついに追い抜いたのか?
そう結論するのは早計だ。同じTBSの決算資料には「個人全体視聴率」の表も入っている。そちらでは、プライム帯で日テレが7.5%、テレ朝が6.8%で、日テレが1位だ。この世帯視聴率と個人全体視聴率とは何だろう? そもそも、世帯と個人で視聴率の水準がずいぶん違うのはなぜなのか。
この辺りについて、私は新著『嫌われモノの〈広告〉は再生するか 健全化するネット広告、「量」から「質」への大転換』の中で詳しく書いているが、テレビCMの指標はいま、大きな変化の渦中にある。それが世帯視聴率から個人視聴率への変化だ。
家族が多い世帯が見る番組は個人視聴率が高い
たとえば10軒の家があるとして、ある番組がその中の5軒で見られていれば、世帯視聴率は50%になる。一方で、25人いる個人の中で7人が見ていると個人視聴率は28%になるのだ。
同じ調査対象の中で、同様に5軒が見ているとしても、25人中11人が見ていれば個人全体視聴率は44%になる。世帯視聴率が同じでも個人視聴率は違ってくる。傾向としては、世帯構成人員つまり家族が少ない世帯が見ると個人視聴率は低くなり、家族が多い世帯が見る番組は個人視聴率が高く出る。
実は世帯視聴率には問題が生じていた。日本の高齢化が進んだため、高齢層が好む番組ほど視聴率が高くなるのだ。逆に子どもがいて家族が多い世帯が見る番組は、個人視聴率が高くなる。世帯視聴率と個人視聴率で日テレとテレ朝の順位が入れ替わったのは、この違いが出たというわけだ。テレ朝は高齢層が好む番組が多い。『相棒』のメイン視聴者は高齢者だし、聞いたところによると『ポツンと一軒家』は65歳以上に支持されており、若い層はあまり見ていないという。
世帯視聴率は、商品を若い人に買ってほしいと考える多くのスポンサーの広告出稿ニーズに合わなくなっていた。そこで2018年から、関東地区でスポットの購入の指標に個人全体視聴率が使われるようになった。個人視聴率の測定には、ビデオリサーチのピープルメーターという機械式の調査を導入する必要があり、これまでは関東・関西・中京地区のみでしか数字が出せなかった。
それがこの春からは全国でピープルメーターによる調査がはじまり、日本全体の個人視聴率が出せるようになった。もはや世帯視聴率は指標として前時代のものになってしまった。過渡期なので世帯視聴率のほうが取り上げられがちだが、もはや主役の指標ではなくなりつつあるのだ。
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