「コロナは陰謀」と信じる人々を生む深刻な病巣 排除され孤立している彼らが自尊心を守る為に

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これは社会的な孤立のまっただ中にいる者にとっては福音であり、現状の生活では得られない「代替的な地位」が大きな魅力となっている。信頼できる対人ネットワークの少なさもこれを後押しするだろう。周囲に感染者や医療従事者がいなければ、コロナはますますメディアの産物でしかなくなり、その真実性をいかようにも加工することが可能になる。

これが反ワクチンなどの運動と結び付くと面倒だ。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが、新型コロナウイルスのワクチン接種で、マイクロチップを埋め込もうとしているといった陰謀論があった。製薬ビジネス絡みの陰謀論も多く、コロナ=フェイク説が広まれば、ワクチン接種が忌避されることは論をまたない。7月17日にグーグルが新型コロナウイルスの陰謀論を唱える広告の禁止を発表するなどネット上での規制も始まっている。

ナルシシズム的な認識と一体になったもの

歴史家のルネ・ジラールは、「人類はつねに、自然に由来し、遠くにあって理解しがたい原因よりは、『社会的に意味があり、人間が干渉して変更させることができる』原因、言いかえれば犠牲者のほうを好んできた」(『身代りの山羊』織田年和・富永茂樹訳、法政大学出版局)と言ったが、ウイルス禍が何者かが意図的に作り出した「意味があるもの」という陰謀論的な思考もこのような原始的な心性のバリエーションといえるだろう。これは「人間がこの世界にとって重要な存在である」というナルシシズム的な認識と一体になったものでもある。

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実のところ、わたしたちが深層心理において最も恐れているのは、歴史を変えるかもしれない未曾有のウイルス禍が、日々増え続ける膨大な犠牲者も、インフォデミックによる世界的狂騒も含めて、どこにも首謀者がおらず、特に何の意味もない(自然界は人類にとりわけ関心を払っているわけではない)、ただのアクシデントに端を発した災厄にすぎないという身も蓋もない事実なのかもしれない。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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