イソジンを買いに走った人に致命的に欠けた力 インフォデミックで情報の真価を見極める方法

✎ 1〜 ✎ 16 ✎ 17 ✎ 18 ✎ 19
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

そもそも、公表された大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センターの研究計画を見ると科学的な根拠が弱く感じられます。ポビドンヨード液でうがいをしたところ唾液中のウイルス量が減少したという結果を根拠に、重症化を予防したり、他者への感染を予防したりするのではないかとの推論には論理の飛躍があるように思います。

科学的な研究は本来、過去の論文を積み上げた先になされるものです。ポビドンヨードのうがい薬がコロナ対策としてよさそうだと考えた場合でも、科学的な方法にのっとり、適切な統計処理がなされ、新しい事実として学術雑誌などに報告されたものでなければ、今回の会見のような形で発表されるのは望ましくないし、マスコミも取り上げるのは適切ではないと考えます。

長期間、大人数が対象となる感染予防の考え方

新型コロナウイルスの感染予防は、今後年単位の長期間のものとして考えねばならず、対象となる人も一般市民全体と大人数になります。ポビドンヨード液の副作用として、ショックやアナフィラキシー(呼吸困難、不快感、浮腫、潮紅、じんましん等)などの発症は0.1%未満と発表されていますが、分母が大きくなれば無視できません。

ポビドンヨード液を使用すると、血中ヨウ素濃度が高くなり甲状腺機能にも影響をもたらす可能性があります。咽頭の常在細菌が消失するため、かえって健康を害する結果になる可能性も指摘されています。万が一、年単位で数百万人もが使用すれば、稀な副作用も無視のできないものになります。

幸い、その後の新聞などの報道では、科学的なエビデンスが十分でないと解説が付け加えられています。しかし感染拡大が続く現状を考えると、今回のような不確実情報が瞬く間に全国に広がり、人々の行動に影響を与えてしまうようなことが繰り返されるのではないかと危惧しています。情報に振り回されることなく、しっかり情報を吟味して行動できる人々が増えるよう、反省する機会としてとらえることが必要でしょう。

加藤 眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

かとう しんぞう / Shinzo Kato

1956年生まれ。1980年に慶應義塾大学医学部卒業。1985年に同大学大学院医学研究科博士課程単位取得退学(医学博士)。米国マウントサイナイ医学部研究員、 東京都立広尾病院の内科医長、内視鏡科科長、慶應義塾大学医学部・内科学専任講師(消化器内科)などを経て、 2005年より現職。著書に『患者の生き方』『患者の力』(ともに春秋社)などがある。毎月、公開講座「患者学」を開催している。
 

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事