「無名企業」のワクチン候補が超注目される理由 スピード生産で21年初めまでに1億本が可能に
創業から33年間で一度もワクチンを市場に出したことのないノババックスは、これまでにヒトで結果を示したほかのコロナワクチンとは異なる仕組みを採用している。
同社のワクチンには、免疫系からの反応を促すコロナウイルスのタンパク質が含まれている。競合するワクチンにはウイルス遺伝子やいわゆるアデノウイルスなどを下地とする新手法が使われているが、タンパク質ベースのワクチンにはそれら新手法よりも長い実績を持つものがある。
タンパク質ベースのワクチンはB型肝炎や帯状疱疹などに対して認可されている。ノババックスは今年初め、インフルエンザを対象としたタンパク質ベースワクチンの第3相試験を完了させており、中東呼吸器症候群(MERS)などほかの疾患に向けたワクチンの研究も行っている。
高レベルの抗体を生成
ノババックスの技術は、ガの細胞を変質させ、コロナウイルスが持つスパイクと呼ばれるタンパク質の「工場」に変える。コロナウイルスの表面に突き出しているとげがスパイクだ。そのスパイクタンパク質を複数、ナノ粒子の中に組み込んでワクチンが作られる。
さらにノババックスはワクチンの効果を上げるため、スパイクタンパク質にアジュバントと呼ばれる化合物を混ぜた。マウスを用いた過去の試験で、アジュバントが免疫細胞を刺激し、ウイルスに対する強い反応を引き起こすことがわかっている。
研究者たちはこのタンパク質とアジュバントを異なる配合で組み合わせてサルに投与した。その後、サルはコロナウイルスを防ぐ抗体を高レベルで生成し始めた。
イェール大学の免疫学者、岩崎明子氏によれば「大いに注目すべき結果だ」。ノババックスのワクチンは、モデルナの開発したメッセンジャーRNAワクチンなどほかのコロナワクチンよりも強力な感染防止効果をサルにもたらした、と同氏は指摘する。
5月にノババックスは、134人のボランティアを対象に第1相ヒト臨床試験を開始した。ワクチンを接種した人の中には注射を受けた部分に圧痛を感じた人もいたが、重篤な副作用は見られなかった。
研究者たちはワクチン接種後にボランティアから血清を抽出し、コロナウイルスと細胞に混ぜ合わせた。その結果、ボランティアの体内では細胞へのウイルス感染を防ぐ抗体が高レベルで生成されていたことがわかった。抗体の量は自力でコロナ感染から回復した人よりも、ワクチン接種したボランティアの方が多かった。