平城宮跡を貫く近鉄線「移設計画」は実現するか 40年前からの懸案が進展、しかし課題は山積

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事業費の規模がどのくらいになるのか、奈良県などは概算を示していない。大和西大寺駅に似た構造の阪急電鉄淡路駅付近(大阪市)の高架化は、約1600億円。周辺の地価や地質などに左右されるため一概にいえないが、これに近い金額になるのではないか。

阪急の淡路駅付近で行われている高架化工事(筆者撮影)

これまでの報道によると、近鉄は「行政側の全額負担」「現行サービス水準の維持」を条件に協議するとしていた。しかし近鉄広報部は「(全額負担とサービス水準の維持は)移設に関しての話。大和西大寺駅付近の高架化は、鉄道事業者側も一部負担する連続立体交差事業(連立事業)の枠内と認識している」と話した。

連立事業は高架化や地下化で踏切を解消し、道路渋滞の緩和などを図る都市計画事業の一種。阪急淡路駅付近の高架化も連立事業だ。国や自治体が事業費の大半(9割程度)を拠出し、残りを鉄道事業者側が負担する。大和西大寺駅の高架化を連立事業で実施するなら近鉄も負担しなければならないが、負担額は大幅に抑えられる。

現ルートから離れても連立事業?

問題は大和西大寺―近鉄奈良間の移設だ。奈良県のまちづくりプロジェクト推進課によると、連立事業と公園補償を組み合わせた事業スキームを検討中という。

連立事業は通常、従来の線路とほぼ同じ場所に高架橋や地下トンネルを建設する。ルートの大きな変更を伴う場合、連立事業として実施できるかどうか不透明だ。仮に連立事業の制度を適用できなければ、原則的には鉄道事業者側が事業費を全額負担しなければならず、近鉄としてはのめないだろう。

JR仙石線のあおば通―苦竹間(仙台市)で実施された地下化のように、従来の線路から離れたルートで連立事業を実施した例はある。ただ、仙石線は従来の線路から最大で約300m離れていたのに対し、奈良県の移設案は最大約600m離れている。距離が離れすぎていて連立事業の適用が不可能ということになれば、別の方策を考えなければならない。

このほか、連立事業にあわせて新駅を整備する場合、それによる増額分は別枠になる。これも今後の協議の課題になりそうだ。行政側が全額負担する「請願駅方式」の採用が考えられる。

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