コロナ不安を増幅させる一筋縄でいかない構造 情報の氾濫に政府やメディアはどう対応したか

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――日本においてマスメディアの果たす役割は、まだ大きいということですね。

西田:ただ、報道のあり方は取材においてもコンテンツの作り方においても古典的といえるものですし、コロナ禍においては、現在進行形の報道が多すぎます。政府省庁の発表を「こう言っています」とそのまま伝達するだけの、土管化した内容ばかりでした。そうではなく、発表内容に補足情報を加えて伝えたり、過去に類似の事例があればそのときはどうだったのかを思い出させたりするような報道をしてほしい。

日本の報道機関では速報、取材、告発からなるストレートニュースこそ価値があると思われていて、特ダネを抜くことに重きが置かれます。ストレートニュースも大事ですが、情報を受け取る側が自分で考えるための助けとなるような報道がもっとあっていいと僕は考えます。

人々は忘却し、忘却したことは再び繰り返す

――コロナ禍でいうと、具体的にどういう「助け」があるべきだと思われますか?

『コロナ危機の社会学  感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版)。書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

西田:2009年に新型インフルエンザの蔓延がありました。そのときにすでに自粛の要請や、学校の一斉休業も実施されているんです。それなのに今回、どちらもさも初めてのことのように報じられました。いまは情報への接触頻度も量も増えている時代ですから、1年前のことすら思い出せるか怪しいという人は多いでしょう。

人々は忘却し、忘却したことは再び繰り返されます。反復です。それによって不安が広がって、何かあったときに脊髄反射的な反応をしてしまうようになるのだと思います。マスクや日用品の買い占め行動はその一例ですし、政府の対応への批判にもそれは表れています。

――その批判に耳を傾けすぎて、政府は場当たり的な対応を繰り返す……という悪循環が起きるわけですね。

西田:マスメディアは新型インフルエンザについて多くの取材を重ね、それが残っていますよね。当時の市井の様子はどんなだったか、政策決定はどのような過程で行われていたかを思い出させる報道、それをもとに現在の新型コロナ対策について考えさせるような報道が求められていたはずですが、緊急事態宣言が終わるまでそういったものはほとんど見られませんでした。

情報量が多すぎる時代には、整理して、構図をわかりやすくして、分析して、意味を析出させて、そのうえで受け手に届ける……ここまでデザインできるジャーナリズムが求められていて、僕はこれを「機能のジャーナリズム」と呼んでいます。これまでのストレートニュースを報じて単純によい/よくないだけ提起していればよかった「規範のジャーナリズム」とは異なるものです。

――今後、マスメディアにおけるジャーナリズムは変わっていくのでしょうか?

西田:現状のままでは、変わるとは考えにくいですね。それどころかますます人々がSNSを中心にコミュニケーションするようになって、マスメディアの存在感が大きく後退していき、結果、欧米のように社会の分断が進むのではないかと思います。もちろん日本はそうならないほうがいいと思いますので、僕はかねて社会にどう「機能のジャーナリズム」を実装していくかということに問題意識をもってきました。今回のコロナ禍でも、そのことが改めて浮き彫りになったといえます。

 

注1)総務省「令和元年版 情報通信白書のポイント」3ページ目
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/pdf/01point.pdf
注2)総務省「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査報告書」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban18_01000082.html
注3)「羽鳥慎一モーニングショー」(毎週月曜~金曜の午前8時から)の2019年の年間平均視聴率は9.4%(ビデオリサーチ調べ関東地区)
三浦 ゆえ フリー編集&ライター

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みうら ゆえ / Yue Miura

富山県出身。複数の出版社を経て2009年フリーに。女性の性と生をテーマに編集、執筆活動を行う。『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』シリーズや『失職女子』などの編集協力を担当。著書に『セックスペディア-平成女子性欲事典-』がある。

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