コロナ不安を増幅させる一筋縄でいかない構造

情報の氾濫に政府やメディアはどう対応したか

――情報の過剰拡大に関しては、SNSの影響も大きいのではないでしょうか。いまや生活に欠かせないものになっていますが、限定的な空間でのコミュニケーションを繰り返すことで特定の考えが反復、強化される、「エコーチェンバー現象」の危険性も指摘されています。

西田:このコロナ禍においては、例えばニューヨークにいる人が発信した情報がSNS上でリツイートやシェアされて自分のもとに届くことで、日本にいながらリアルタイムで現地の状況がよくわかったような気になります。

といっても、ここで僕たちが受け取っているのは、ある1人の人物が見た、ニューヨークのごくごく小さい断片にすぎないものです。しかし受け手側は「ニューヨークはこうなんだ」「都市封鎖されたらしい。日本でもそうなるのではないか」と思ってしまう。SNSによって世界が見えすぎ、不安が生まれるという問題が出てきました。日本のメディア、とくにテレビの情報番組でも、データや、被害の全体像を客観的に伝えることは重視されず、事例とエピソードが好まれがちです。

コロナ報道で「土管化」

――私たちが不安に感染しないようにできればいいと思うのですが、具体的な方法はありますか?

西田:残念ながら、ほとんどないですね。拙著では「脊髄反射的反応への忍耐、過去の経緯と対処の正しい認識と理解が必要」という消極的な記述にとどまっています。一見してよさそうなもの、逆によくなさそうなものに出くわしたら、一瞬立ち止まってみる。それができるようなら十分です。おそらくはそれすらかなり難しいことです。

現在は「わかりやすさ」が求められる時代です。僕は「イメージ化」と言っていますが、文章を読むよりも、静止画や動画にしたもののほうがわかりやすいので、より好まれます。そのため企業も政治も多くの資源を投入して、われわれの印象に働きかける方法を模索しています。個々人がそれらに対峙できると思うほうが間違いではないでしょうか。

――TikTokやInstagramで積極的に情報発信がされていますね。

西田:それに慣れると、一歩止まって受け止める所作自体が難しくなります。変わるべきは個人ではなく、権力監視や市民サイドの情報を提供するメディアでしょう。とくにマスメディアがジャーナリズムに改めて取り組まなければならないと思います。日本ではテレビと新聞を中心とした伝統的なマスメディアの影響力がいまだに強いといえます。

西田「令和元年版 情報通信白書」(注1)を見ると、20代も含む全世代で、新聞、テレビへの信頼度が、インターネットへの信頼度と比べて相対的に高い状況にあることがわかります。総務省の「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査報告書」(注2)も同様の傾向を示します。その信頼と期待にメディアはきちんと応えるべきですが、ネットメディアは言うに及ばず、民放もその役割を本当に担えているでしょうか。

――若者の新聞離れ、テレビ離れといわれるようになって久しいですが、実際はそうでもないのですか?

西田:確かに若い世代を中心に新聞やテレビへの非接触率は上がっているといわれますが、テレビ保有台数の顕著な落ち込みは見られませんし、テレビ局各社の広告収入も横ばい状態が続いています。例えばテレビ朝日系列の「羽鳥慎一モーニングショー」は新型コロナに関する放送内容で何かと耳目を集めましたが、毎回10%前後の視聴率(注3)があって全国で1000万人以上が同時視聴していることになります。ネットには、そんなコンテンツはほとんどないですよね。

世界ではコロナ禍によって社会の分断がいっそう明るみに出たり、さらに進んだりといった現象が見られます。日本でもその可能性が指摘されてはいますが、この状況にあっても分断の進み方がゆっくりなのは、メディアを通じた共通体験があるからでしょう。

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