「火星に生命は存在するか」への現時点での答え 史上初、NASA「火星サンプルリターン」始動

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火星軌道ではオービターが待ち構えている。サンプルがオービターに移された後、イオンエンジンが稼働し、地球への帰途につく。この3つのミッションのうち、現在NASAが承認しているのは最初のマーズ2020ローバーだけだ。これが成功したら残りの二つも動き出すだろう。

火星ローバーの自動運転

僕も現在、マーズ2020ローバーに携わっている。僕が行っている仕事は2つある。

ひとつは着陸候補地点の選定だ。太古の生命の痕跡が残されている確率が高い場所はどこか。それを考えるのは科学者の仕事だ。技術者である僕の仕事は、それぞれの候補地点でローバーが安全に走行できるのかを解析することである。

現在、着陸候補地点は3つに絞り込まれている。1つ目は「コロンビア・ヒルズ」。2004年に火星ローバー・スピリットが探査したのと同じ場所で、過去に水によって作られたさまざまな変成岩がある。二つ目は「ジェゼロ・クレーター」。

ジェゼロとはスラブ言語で「湖」の意味で、その名の通りこのクレーターは昔は湖だった。湖には2本の川が注いでおり、その三角州に過去の生命の痕跡があるのではないかと思われている。

そして3つ目は「北東シルチス」。ここには火星表面に液体の水があった時代からそれが干上がっていった時代までの地層が保存されている、タイムカプセルのような場所である。最終選考は2018年に行われる予定である。

僕の二つ目の仕事は、ローバーの自動運転ソフトウェアの開発だ。現在は地球でも自動車会社やIT企業が競って自動運転車を開発しているが、火星では2004年に着陸した2台のローバー、スピリットとオポチュニティーがすでに自動運転を行っていた。火星ローバーの速度は非常に遅い。現在火星を走っているキュリオシティーの走行距離は長くても1ソル(1火星日のことで24時間40分)に約100メートル、平均すればせいぜい50メートルほど。陸上選手が十秒で走る距離を一日かけて走るのだ。

マーズ2020ローバーは、それを1ソルあたり平均で200メートル程度に伸ばす必要がある。しかも着陸候補地点は岩場や砂地が多い。この距離を安全に走るために自動運転機能をアップグレードするのが、僕が行っている仕事である。

技術的に簡単ではない。

理由はいくつかある。まず、搭載されているコンピューターが非常に遅い。放射線の強い宇宙では特別仕様のCPUを使う必要があるのだが、地球用CPUより数世代遅れるのが常である。キュリオシティーやマーズ2020ローバーに搭載されるRAD750というCPUは、アップルの1997年のiMac と同じCPUの宇宙バージョンだ。 現代のスマート・フォンよりもずっと遅い。そんなコンピューターで自動運転を実現するには、ソフトウェアにいろいろな工夫をしなくてはいけない。

いま、ひとつの技術的困難は、修理できないことだ。火星ローバーはメンテナンスなしで何年も走り続けなければならない。しかも、岩に当たって壊れてしまっても、JAFのお兄さんを火星に呼んで直してもらうわけにはいかない。だから最高の信頼性が求められる。

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