西浦教授が語る「新型コロナ」に強い街づくり 「移動の制御」を正面から議論すべきときだ 

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新型コロナの流行では、ウイルス感染症に対する大都会の脆弱さがあらわになった(写真:Ryuji / PIXTA)
東京を中心に再び感染拡大のフェーズに突入した日本。改めて強く認識されるのは、新型コロナウイルス感染症は「都会の病気」であるということだ。7月11日の講演で菅義偉官房長官は「この問題は圧倒的に『東京問題』と言っても過言ではない。東京中心の問題になっている」と述べた。
短中期的に新型コロナの流行を制御し乗り越える努力を続けると同時に、長期的な視野で感染症に強い社会のあり方についても議論を始める必要がある――。そう提言するのが、厚生労働省クラスター班のメンバーである北海道大学大学院の西浦博教授だ。新型コロナは、疫学者にとってもノーマークだった面があると西浦氏は自身を省み、社会のあり方を見直す必要性を強調している。

ショックだった「暗黙の想定」の崩壊

――新型コロナウイルスの流行を受けて意識が変わったそうですね。

今回は幸いにして、人類の大多数が死亡するような致死率が高いものではなかった。だが、もっと毒力の高いウイルスがいつ出てくるかわからないことに、われわれは真摯に向き合う必要がある。原子力発電所は、事故がありうることを想定せずに安全だと考えてきたが、福島の経験でひっくり返された。新型コロナもある程度ノーマークに近かった。科学者として暗に信じていたことが覆された。

――どういうことですか。

これまで厚労省の感染症対策に関係してきたが、日本中の病院から患者があふれるようなウイルスは想定したことがなかった。厚労省は「これくらい病床が必要になるので用意してください」と都道府県に通知する立場だが、「対応しきれないくらいの感染者数が想定されますが、あなたの県では何をしても病床が足りないでしょう」と言うのは、地方公共団体に行動を促すための通知として意味をなさない。だから、病院からあふれるほどのウイルスは暗に想定しないようにしていた。

過去10年来の新型インフルエンザの議論でも「致死率が高く、かつ人集団の間での感染が起きるものを想定すべき」と話していたのは、東京大学の河岡義裕教授と東北大学の押谷仁教授の2人くらいだ。先生方がそうした話をされたとき、厚労省の事務方がとても嫌な顔をされていたことを覚えている。

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