安易にリモートワーク導入する企業を襲う悲劇 過去にはたくさんの企業が取りやめている
リモートワークの撤回で世間を賑わせたのは、ミネアポリスに本社を置くベストバイだ。在宅勤務プログラムは2004年に始まったもので、当初は全米から注目された。その目的は、従業員を働いた時間や場所ではなく、成果で評価することにあった。
しかし、ベストバイは従業員に自由を与え過ぎたとして2013年に、このプログラムを打ち切った。当時CEOだったヒューバート・ジョリー氏は、このとき、こう語っている。「チームを率いた経験のある者なら誰でも知っていることだが、権限の委譲が最も効果的な統率スタイルとは限らない」。
会社はリモートワークを信用していない
業績が思わしくなかったことから会社はパニックに陥ったのだ、と同プログラムの共同立案者で、2007年にベストバイを去ってコンサルタントになったジョディ・トンプソン氏は語る。「『見えるところにいる従業員は働いているに違いない』という発想に逆戻りした」。
新型コロナに伴い、ベストバイでは現在、本部従業員の95%がリモートワークとなっている。これは同社の考え方に再考を促すことになるかもしれない。ベストバイの広報担当者は「柔軟な働き方という選択肢は、今後とも何らかの形で維持していくことになる」とコメントしている。
柔軟な働き方によって従業員はスケジュールの自由度が高まる。しかし、だからといって管理手法が劇的に変わるわけではない。管理手法の変革こそ、トンプソン氏が目指していたものだ。「今こそ働き方を良い方向に変えるチャンスだ」とトンプソン氏は語る。「働き方について新しい文化を創り出す必要がある。完全に透明で、完全に自律した文化、人ではなく仕事だけを管理する文化だ」
しかしトンプソン氏は、こうした状況だからこそ働き方が悪い方向に変化する危険もある、と指摘する。
「世の中は今、普通の状況にはない。部下の姿が見えなくなれば、もっと管理を厳しくしたくなるのが管理職というものだ。従業員の監視ツールに注目する管理職は増えている」(トンプソン氏)
リモートワークの従業員は通勤から解放されるかもしれないが、在宅勤務者の立場はもともと弱い。ロサンゼルスで投資会社ダブルライン・キャピタルを経営するジェフリー・ガンドラック氏は、毎月配信している自身のウェブキャストで、新しくリモートワークを始めた従業員について、ある現実が見えてきたと話している。