安易にリモートワーク導入する企業を襲う悲劇 過去にはたくさんの企業が取りやめている

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これまでも大小さまざまな企業が在宅勤務を進めてきた。1985年には「在宅勤務が加速」といった見出しが大手メディアに現れるようになっている。経営論の大御所、ピーター・ドラッカー氏が「オフィスに出社して仕事をするのは時代遅れ」と宣言したのは1989年のことだ。

在宅勤務はテクノロジー主導型のイノベーションであり、従業員と経営者の双方に恩恵をもたらすと思われた。まず従業員にとっては、通勤が不要となり、個々の事情に最も適した時間に働ける可能性が出てくる。次に経営側にとっては、オフィスなど高額の不動産費用を削減できるだけでなく、オフィスの所在地に左右されることなく、幅広い地域から優秀な人材を採用できるようになる。

在宅勤務の試みの多くは縮小、または撤回

ところが、在宅勤務の試みの多くは結果的に縮小または撤回を余儀なくされてきた。先述のIBMの他にも、この10年間で在宅勤務の巻き戻しを公表した会社には、医療保険会社のエトナ、家電量販大手のベストバイ、バンク・オブ・アメリカ、ヤフー、AT&T、ソーシャルメディア企業のレディットなどがある。

在宅で働く従業員は傍流に追いやられていると感じることが多く、愛社精神の低下をもたらした。それが新たなアイデアやイノベーションなどに悪影響を与えたと考えられたのである。

ヤフーのマリッサ・メイヤーCEO(当時)は2013年に従業員を強引にオフィス勤務に引き戻そうとして激しい怒りを買ったが、ある社内メモにはこう記されていた。「最善の決断や洞察は廊下やカフェテリアの雑談、人々の新たな出会い、即興のチーム会議から生まれることもある」。

テック企業は、従業員が永遠に滞在し続けられる贅沢なコーポレートキャンパスに巨額の資金を注ぎ込んできた。フェイスブックが2018年に発表したのは、要するに寮のような施設をつくるという計画にほかならなかった。アマゾンはシアトル近郊を丸ごと再開発した。

グーグルでCFO(最高財務責任者)を務めていたパトリック・ピシェット氏は「グーグルでは在宅勤務の従業員は何人いるのか」と問われると、好んでこう答えたと話す。「限りなく少ない」。

トレンドの変化は急だった。フェイスブックは今や2025年までには最大で半数の従業員が在宅勤務になると予想する。5000人の従業員を抱えるカナダのショッピファイでは、CEOが5月にこうツイートした。従業員の「大半が永久にリモートワークになるだろう。オフィス中心の時代は終わった」。ウォルマートのCTO(最高技術責任者)も従業員に次のようなメッセージを伝えている。「バーチャルな働き方が新しい日常になる」。

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