ベンツ×BMWの提携がすぐに打ち切られた事情 新たにNVIDIAとの提携を発表した真意とは

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筆者はかつて、サニーベールにあるメルセデス・ベンツR&Dを拠点に開発が進められていた、「Sクラス」をベースとする自動運転車両のテストを現地で行ったことがある。実はNVIDIAの本社があるのは、そこからクルマでたった10分ほどのところ。もちろんBMWの場合と同様、ほぼ一致する目標に向かって鎬を削る者同士として、情報交換も人材交流もあったのだろう。

いずれにしても、メルセデス・ベンツの自動運転技術が、全面的にではないにしろシリコンバレー発のものになるというのは、インパクトが大きい。オンラインアップデートについて触れられているあたりを見ても、テスラのようなシステムが載ってくる可能性は大いに考えられる。

シリコンバレー的なスピード感

両陣営の哲学、それこそクルマはどうあるべきか、クルマにとっての安全とは何を意味するのかという部分がマッチするかは、正直なところ見ものだ。少なくとも、今のところはそれこそ現行のメルセデス・ベンツと、テスラの違いのようなものが、両社の間に横たわっていると考えるのが妥当だろう。

ダイムラーとNVIDIAの提携ではオンラインアップデートについても触れられた(写真:ダイムラー)

けれどもダイムラーが求めたのは、まさにそこに違いない。BMWなど自動車セクターとのコラボレーションにはない、多少リスクを背負っても圧倒的なスピード感で開発を進めていく姿勢こそが、テスラ旋風が吹き荒れる自動運転分野、あるいはプレミアムカー市場での覇権争いには必要だと、昨年就任したオラ・ケレニウスCEOは考えたのではないだろうか。

これからのダイムラーは、きっと今まで以上に攻めの技術開発を行っていくに違いない。自動運転関連技術だけでなく、他の分野でも同様に。ドイツ的モノづくり、メルセデス・ベンツらしい慎重さなどが薄らいでいかないかという危惧もあるが、それも含めて今後の展開は大いに注目と言えそうだ。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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