トランプ再選可能性は「黄信号」へ改善している 失言続きで世論調査も劣勢なのに本当なのか

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その理由を解説しよう。黒人の人権運動が建国の父や南北戦争の関係者の銅像などの破壊につながり、今のアメリカは過去の歴史を否定するかのような左翼ファシズムが台頭している。

そんな中、前述のようにメディアは日々、トランプ大統領の個人的な資質を攻撃している。だが、4年前に比べ、トランプ大統領は何かが変わったわけではない。そして黒人差別撤廃運動の最大の目的が、過去の奴隷制度の贖罪を、今を生きる全ての黒人に現金配布で行うという「Reparation(賠償)法案」成立にあることが、徐々に浸透し始めている。

すでに議会で検討されている案は、全ての成人の黒人に平均5万ドル(約540万円)を給付するというびっくりするような話だ。仮に実現すれば、アメリカの債務負担はそれだけで13兆ドル規模になるという。

もし、11月3日の選挙で、民主党が大統領選挙と上下両院選挙を勝てば、実現の可能性は極めて高い。そのためにMMT(現代貨幣理論)もある。だが、そんなことになれば、黒人だけが優遇されることに、他の有色人種はどう反応するのだろう。このあたり、民主党が誰を副大統領候補にするかが、極めて重要になる。

自ら「柔軟性を捨てた」バイデン氏

そして、知っての通り、すでにジョー・バイデン氏は副大統領候補を女性にすると宣言してしまった。さらに大統領になった場合の任期も最長で1期、場合によっては、1期目の途中で交代し、その「副大統領」に禅譲することもありうるとの噂が立っている。真偽はともかく、バイデン氏が「つなぎ」であることがもはや民主党の総意であることは、確かなように見える。だとしたら、なおさら副大統領候補は重要である。

個人的には、バイデン氏が、女性を副大統領候補者にすると宣言してしまったことは、今後の世界情勢への対応する柔軟性を、自分で捨てたように思える。

あくまでも個人的な意見だが、NY州知事のアンドリュー・クオモ氏を副大統領候補にし、彼に禅譲するなら、結果的にはセオドア・ルーズベルトと同じとなる。過去にNY州知事から大統領になったのは2人のルーズベルト(もう一人はフランクリン・D・ルーズベルト)だが、共通するのは強さだ。日本のメディアは報道しなかったが、暴動が起きた初日、暴動を鎮圧しようとしないビル・デブラシオNY市長に激怒したクオモ知事は、「場合によっては市長を解任する」とまで言った。

トランプ大統領にしてみれば、自分の強みであるはずの「法と秩序」まで備えているクオモ氏を相手にするのは困る。だが、バイデン氏はその可能性を除外した(注、先物市場ではトランプ大統領とバイデン氏が候補者になる可能性はまだ100%ではない)。ならば本当の勝負はこれからとして、カギを握りそうな中国はどう出るだろう。

ここまでのところ、選挙戦略としてのトランプ政権の「中国叩き」は効果を見せていない。応援団のバノン氏の言葉を借りれば、殺されたフロイド氏は、新型コロナウイルスにかかって、安定した仕事を得ることもできなかった。これはコロナウイルスを拡散し、アメリカから仕事を盗んだ中国のせいだ、ということになる。

だが、先日、香港問題で初めて首都ワシントンの中国大使館前で抗議のデモがあったものの、コロナ禍がアメリカを覆って以来、中国大使館の前では誰も抗議のデモをしていない。つまり今の程度の中国叩きでは、票になりそうもない。

一方で、日本のニュースで聞いたジョン・ボルトン氏の暴露本の解説は、偏っている面がある。つまり、トランプ大統領が一方的に中国の習近平主席に選挙協力を頼んだような解説になっているが、実際は、習近平主席がトランプ大統領の再選を望む、と先に言ったので、トランプ大統領はだったら協力してほしいといっただけである。

ではなぜ中国はトランプ大統領に再選して欲しいと考えているのか。そのあたりは、2021年のIMF(国際通貨基金)総会で「5年に1度行われる見直し」を控えていることも踏まえ、次回に紹介したい。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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