コウテイペンギンの父は「子の孵化」に命を捧ぐ -60℃の極寒で4カ月も絶食して卵を守り続ける

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子ペンギンはなんとも愛くるしい(写真:KeithSzafranski/iStock)

海から内陸へ移動すると、コウテイペンギンたちは求愛を行う。オスとメスはラブソングを歌うかのように鳴き合ったり、向かい合っておじぎをしたりする。こうした愛の儀式を経て、お互いに一夫一妻のパートナーを見つける。こうしてペンギンの夫婦は5月から6月頃に、愛の結晶として大きな卵を1つだけ授かるのである。

オスはその卵をメスから受け取って自分の足の上に移動させる。

凍(い)てつく地面の上に少しでも卵が触れれば、瞬く間に凍(こお)りついてしまう。そのため、地面に落とすことのないように足の上で抱きかかえると、オスだけにある抱卵嚢(ほうらんのう)というだぶついた腹の皮をかぶせて抱卵する。ただ実際には、卵をメスからオスへと渡すときに、わずかなミスで卵が死んでしまうこともあるというから、切ない。

これから、長い長い子育てが行われる。

ペンギンのエサは海の中の魚である。海を離れた内陸にペンギンたちの食べるものはないから、内陸へ移動を始めてからの2カ月間、ペンギンたちは新たなエサは何も口にしていない。そのため、産卵を終えたメスたちは、体力を回復させるために、エサを求めて海へと戻っていく。

メスが戻ってくる間、オスは卵を温めて待つ

もちろん、オスのペンギンも何も食べていないのは同じである。それでも、メスが戻ってくる間、オスはじっと足の上で卵を温めるのだ。

季節は冬である。南極では極夜(きょくや)を迎え、太陽の当たる時間はほとんどない。1日中、闇夜が続く。気温はマイナス60℃。それに加えてブリザードが容赦なく吹きつける。そんな中をオスたちはじっと卵を守り続けるのである。

しかし不思議である。一般的に鳥は春に卵を産み、エサの多い夏の間に子育てをする。それなのに、どうしてコウテイペンギンは、これから厳しい冬に向かおうとする季節に卵を産むのだろうか。

南極の夏は短い。12月から1月の2カ月間が南極にとっては夏と呼べる季節である。もし、暖かくなってから卵を産んで温めていたのでは、卵から孵化した子どもたちが大きくなる前に夏が終わり、子どもたちは厳しい冬を過ごさなければならなくなってしまう。冬になるまでに子どもたちを成長させようとすれば、冬の間に卵を産み、できるだけ早くヒナを孵す必要があるのである。

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