コウテイペンギンの父は「子の孵化」に命を捧ぐ -60℃の極寒で4カ月も絶食して卵を守り続ける

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吹き荒れるブリザードの中を、オスたちは群れ集まって身を寄せ合う。この行為はハドルと呼ばれている。オスたちは力を合わせて厳しい南極の冬を乗り越えようとするのである。

しかし、厳しいブリザードの中で、命を落としてしまうオスもいるという。過酷な子育てなのだ。

コウテイペンギンのオスはこうして、2カ月間も卵を温め続ける。海を離れたのは、その2カ月前だから、オスたちは4カ月もの間、極寒の中で絶食を続けていることになる。

コウテイペンギンは、ペンギンの中ではもっとも大きく、体重は40キログラムにもなる。ところが、断食が続いた結果、この季節になると、オスの体重は半分ほどにまで減ってしまうという。

やがて季節は8月となる。南極の8月は冬の真っただ中だ。

長い旅を終えたメスたちがようやく戻ってくる

8月頃になると、長い旅を終えたメスたちが、ヒナに与える魚を胃の中にたっぷりと蓄えて、ようやく海から戻ってくる。ペンギンの胃にはそのような仕組みが備わっているのである。魚をたっぷりと蓄えたメスのお腹はパンパンだ。まさにオスたちにとっては待ちわびた瞬間だ。

そして、ちょうどこの頃、長い抱卵のかいがあって、ヒナたちが卵から生まれ出てくる。しかし、オスはヒナが生まれた後も、しばらくの間は足の上でヒナを守り続ける。

もし、メスが戻ってくる前にヒナが生まれてしまうと、ヒナたちは食べるものがない。そのため、オスは食道から乳状の栄養物を吐き出し、エサとしてヒナに与える。これはペンギンミルクと呼ばれている。飢えた体に蓄えられたわずかな栄養をヒナに与えるのである。

メスが戻ってくると、オスとメスとが互いに鳴き合ってパートナーを探す。不思議なことに、1万羽ものペンギンの群れの中で、声だけでパートナーを探し合うことができるという。なんという絆(きずな)で結びついた夫婦なのだろう。しかし、必ずパートナーに会えるとは限らない。

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