コウテイペンギンの父は「子の孵化」に命を捧ぐ -60℃の極寒で4カ月も絶食して卵を守り続ける

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メスが戻ってきても、オスが死んでしまっていることもある。

オスが待ちわびても、旅の途中で行き倒れたメスが戻ってこないこともある。もし、メスが戻ってこなければ、オスとヒナは、飢えて死ぬしかない。

生きてオスとメスとが出会えることは、本当に幸運なことなのだ。

こうして無事にメスが戻ってくると、オスはメスにヒナを預け、メスは足の上でヒナを育てる。そして今度は、オスがエサを獲りに海に向かうのである。

しかし、もう4カ月もの間、何も食べていない。ブリザードの中で卵を抱き続けたオスの体力は、もうほとんど残っていない。

海までの距離は50~100キロメートルほどにもなる。もちろん、旅の途中にもブリザードは吹き荒れる。弱ったペンギンを狙って、海にはアザラシやシャチなどの天敵も待ち構えている。

歩き続け、海に着く以外に生きる道はない

何もない真っ白な大地を、ペンギンのオスたちは歩き続けるのだ。

飢えと寒さが容赦なく襲いかかる。オスたちは、もう限界に近い。

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1羽、また1羽と歩き疲れて命が尽きてしまうオスもいる。それでも他のオスは歩き続ける。海にたどりつくよりほかに、生きる道はないのだ。

こうしてオスが魚を獲って群れに戻ると、今度はメスがエサを獲りに戻る。夏の季節である12月頃になると子育ては終わりを告げる。そして、ヒナが独り立ちをすると、ペンギンの群れはエサの豊富な海へと移動し、3~4月頃になると、繁殖のためにまた内陸に向かうのである。

コウテイペンギンは5歳くらいで性的に成熟し、寿命は15~20年であるとされている。この間、彼らは命が続く限り毎年繁殖行動をし、過酷な子育てを繰り返すのだ。

コウテイペンギンの子育ては壮絶である。そして、常に死と隣り合わせである。

たくさんの死の中で、新たな生が育まれる。

南極という過酷な環境で、コウテイペンギンたちはこうして命をつないできたのだ。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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