少年ジャンプが転機「漫画海外進出」の難しさ 90年代に入りようやく現地で普及し始めた
なお、マンガの海外進出については、アニメとは違った制作上の困難を伴う。それは日本人と海外の人びととの文化的・慣習的な差異から生じるものであった。マンガの翻訳出版に携わった堀淵清治は、実務者らしく内実を次のように整理的に述べている。
タテ書き右開きの日本マンガを、ヨコ文字左開きのフォーマットにどう落とし込むかが、第1の課題となった。そのために採用されたのは、反転 させて印刷する方法である。そのうえで、右読みから左読みにネームを変える。それに併せてフキダシの形、向きなども書き換える必要があった。
日本の漫画は翻訳が一筋縄でいかない
第2の課題は翻訳自体の難しさである。マンガのネームは独特のボキャブラリーが頻出し、またオノマトペ(擬音語・擬声語・擬態語)が多用されるのを通常とする。これは日本語の特質が生むものであるが、翻訳のさい、どういった言葉に置き換えるのかは単純な話ではない。また、同時代の日本での流行語が登場することも、大衆文化ならではの現象だが、翻訳上はきわめてやっかいである。日本語や日本文化を理解しながら、アメリカの読者に訴える言葉を探す作業を行うわけで、翻訳は一筋縄ではいかない作業の繰り返しになる。
なかでも辛抱強い作業になったのは、オノマトペの翻訳だった。元々オノマトペによる端的な表現のところが、英語化するさいは、登場人物のセリフや場面をすべて説明しないといけない。その実例を堀淵書はこう述べている。
登場人物の投げた野球ボールが突然空中で止まるという場面があったとする。日本のマンガであれば、「フッ」というようなオノマトペを描き入れることによって、その場面を簡単に表現できる。〔改行〕しかし、アメコミの常識では、〔中略〕突然ボールが停止したことを伝えるならば、その光景を見た別の登場人物のセリフをつかって、そこで起きた現象や状況を紙芝居的に説明させてしまうのだ。したがってアメコミのページは文字が圧倒的に多くなる。これでは、マンガのような躍動感は生まれてこない。
こういった苦労は印刷出版物ならではといえ、アニメではそうあらわれないだろう。上記した課題のほかに、表紙デザインや吹き出しの違いは当然あるはずで、フォントサイズを自在に使うやり方など、アメコミの常識と異なる「マンガスタイル」全体が訳出の課題を生む。
「マンガスタイル」をなるべく守ろうとしながら翻訳していくのは、相当困難な作業だったはずである。マンガの「世界化」現象を見ていくとき、地道な仕事の積み重ねで、これらの課題解決に取り組んだ実務者の存在を忘れてはならない。
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