憧れの勤務地は「丸の内」から「リゾート」へ リゾート再生の新鋭が考える「地方オフィス」

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身近な事例を挙げて説明すると、白馬岩岳エリアでは、近年のインバウンド・スキーヤーの増加に伴い、リビングスペースやミニキッチン、洗濯機、バス・トイレが部屋に完備され、シェアキッチンなどの共同スペースも充実した長期滞在に向いた施設がすでに多く存在しています。比較的利用者が減少するグリーンシーズンであれば、スキーシーズンより割安な長期滞在料金プランがあります。

ゴンドラリフトで上がった山頂エリアの森の中やレストハウス内には、コワーキングスペースがあるため、そこを仕事場とする「ゴンドラリフト通勤」も可能です。また小さいお子さん連れの場合には、大自然の中でのアートやリトミックなどプログラムが充実したプレスクールがあり、現地在住のオーストラリア人による英語レッスンを受けることもできます。

岩岳山頂は、広大な芝生広場や森の中にワークスペースとして利用可能な設備を整えています(写真は筆者提供)

エリア内の移動は、レンタカーの長期プランのほか、E-Bike(スポーツ電動自転車)の長期レンタルプランもあります。マウンテンバイクやトレッキング、アドベンチャー施設など、体を動かせるアクティビティも充実していることから、効果的にデスクワークの気分転換やストレス発散をしながら、便利にリゾートテレワーク滞在をすることができるようになっています。

都市オフィス再考、生産性と生活の質向上へ

白馬岩岳エリアでは、「リゾートテレワーカー」を受け入れるこれだけの条件が整っているとはいえ、実際の利用者はまだベンチャー企業や外資系企業などごく一部です。それは、多くの首都圏の大企業が、坪単価の高い都市中心部にオフィスを持つことがブランドイメージにつながると考えてきたからでしょう。

今回の新型コロナウイルスの蔓延を機に、都市のオフィスの優位性という概念が変わり、多くの企業で働く場所を再考し始める動きがあります。オフィスの家賃や住宅手当、通勤手当といったこれまで企業側が負担することが当たり前だったコストを、より生産性と従業員のQOL向上に直結するものに活用する。このような発想の転換を企業側にうながすため、1人でも多くのオフィスワーカーに大自然の中で長期滞在し、実体験してもらいながら費用対効果の高さを実感してもらうことが、リゾートテレワークを「当たり前」にするために今、必要なことだと考えています。

リゾートテレワークは長期滞在をすることが前提となるため、観光施設そのものだけではなく、レストランやスーパーマーケットなど地域経済内における消費拡大に大きく寄与することにもなります。平日の稼働率向上という観光業全般の課題に貢献することも間違いありません。

また、長期滞在してくれたお客さんがその地域の魅力をより深く理解してくれる確率も高まり、ロイヤル・カスタマーとして地域の応援団になっていってもらえることも期待できます。実際、白馬村ではウェブサービス会社の社長や広告代理店勤務者が地域に有益なアドバイス、人脈形成などをしているシーンをよく見かけます。この応援は、ふるさと納税などのような金銭面だけではなく、地域にとっての変化の触媒になるといった好影響もあるのです。

ワーケーションのように従業員の休暇が前提の業務遂行ではなく、リゾートテレワークという業務の一環としての新しい働き方に対する支援を企業側が行い、結果として地域経済が活性化していく。ツーリズムにとって負の影響の強い新型コロナウイルスではありますが、社会の変化は新しいビジネスチャンスでもあり、地域を挙げて体制を整え、ニーズの変化に応じた必要な変革を行っていくことが非常に重要だと感じています。

和田 寛 白馬岩岳マウンテンリゾート代表

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わだ ゆたか / Yutaka Wada

1976年生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省、ベイン・アンド・カンパニーを経て、2014年に白馬で働き始める。

2016~17年の記録的な少雪でスキー場の来場者が激減したことを受け、白馬岩岳マウンテンリゾートの経営者として冬期のスキー客だけに頼らない「オールシーズン・マウンテンリゾート」を目指した改革に取り組む。革新的なアイデアを次々投入した結果、2019年にはグリーンシーズンの来場者数がウィンターシーズンを超え、収益も改善。2022年には18万人(2014年比818%)を超える見込み。

その活躍が大きな話題となり、わずか4年で「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」など100を数えるテレビ番組に紹介される。

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