専門家会議「廃止」に日本政府への心配が募る訳 中立性・客観性・誠実性の言葉はもう聞けない?

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緊急事態宣言の発出も、その解除も、最終的には政府が判断している。にもかかわらず、専門家会議が決定していると思われるのは、政府の政策判断の過程が見えてこないからだ。

専門家会議の助言を踏まえて、社会的・経済的な吟味を加えて、最終的にこう判断したという合理的な説明があれば、その責任は政府が負うことになると同時に、専門家会議を守ることにもつながっていく。「専門家会議が政策を決めている」との疑念を裏返せば、政府の無責任さが浮かんでくる。

尾身副座長「知りませんでした」

会見中の尾身副座長が一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたのは、西村経済再生相が専門家会議を廃止して分科会を設置すると会見で述べたことを、記者の質問で知ったときだ。「大臣が何か発表されたんですか?」と問い直したうえで「知りませんでした」と答えた。

専門家会議がこの日、まさしくその問題で会見に臨むことは、西村経済再生相も知っていたはずだが、そのことを伝えていなかったことには驚く。西村経済再生相に告知する義務はないし、政府が決めることだから専門家会議のメンバーも異を唱えるつもりもないだろう。だが、この間、未知のウイルスに対して手探りで感染防止策を模索してきたメンバーに、「廃止」という言葉で報いるのは残酷すぎないだろうか。

西村経済再生相は、専門家会議を廃止するのは、法的な位置づけが不安定だったためと説明している。新しい分科会は、リスクコミュニケーション(リスク時の情報発信)の専門家や地方自治体の関係者らを加える方針も示した。

これまで専門家会議の会見での専門家の言葉は、ウイルス感染症の解明過程ではあるものの、その時点での科学的根拠に基づいた提言だった。それを聞いた私たちは、自分たちなりに心の準備をして、それぞれの立場で対応策を考えてきた。その情報が加工されたものではないことを知っていたからだ。

だが、その専門家の発信は今後、少なくなっていくに違いない。その代わりに、政府というフィルターを通した情報がもたらされ、何が真実で、何がわかっていなくて、どんな状況なのかさえ知らされないまま、政府の方針に従わされることになるのかもしれない。

もちろん、科学の専門家だけですべてを決めることは許されることではない。だが、彼らの言うインテグリティの意味する客観性、政治的中立性、誠実性は、新型コロナウイルス感染症の時代を生きていくうえで1つの救いではあった。

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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